「ドクター・ドクロと七海先生は、完全否定なんだ」
教室に戻り、それぞれの収穫を付き合わせる。
「七海先生は、見た、とは言ったけどね…。証拠を持って来い、って言われちゃった」
「でも、俺は確かに見たぜ?だから、何かウラがあるよな、あれは」
キンタが大きく伸びをする。カズマはパソコンの画面を見て、キュウに尋ねる。
「七海先生は、その女性が医務室辺りにいたって言っていたけど?」
「うん。真木先生は会ったって。でも名前は知らない。会ったというより、道を聞いてきたんだ…片桐先生のところへ行くのに、ね」
リュウへ顔を向ける。リュウは、軽く頷いて話を引き継ぐ。
「片桐先生は、事件の参考人として彼女に会ったと言っていた。名前も、知っていた。大塚とね。だけど、何故、身元不明なのかは知らなかったみたいだ。会話はすぐに終わったと言っていた。それから、大塚さんが窓の外に本郷先生を見つけて、慌てて出て行ったって…」
全員の視線がメグに集まる。
「本郷先生は、大塚、という女性のことは知っていたみたいなの。昔、何かの事件で1、2回会ったんですって。昨日は偶然会ったと言っていたわ。でも、大塚優衣という女性は、今、家にいる所が確認されて。だから、死亡した女性は、大塚優衣に成り代わった誰か、つまり身元不明になるわけね」
「…ということは、大塚優衣に成り代わっていた女性は、片桐先生に会いに行ったのかな?」
「あのね、その事なんだけど――」
キュウの発言に、メグは若干言いにくそうに、言葉を続ける。
「本郷先生に言われて、守衛室に行って資料を見せてもらったの」
「あぁ、そっか。特に先生たちに会うのって、アポが必要だもんね。だったら、守衛の記録に残っているはずだし…。で、彼女が会いに来たのって?」
カズマが、いつでもどうぞ、とキーボードの上に手を置く。
「――それが、団先生だったの」
沈黙が降りたのは、そう長くはない。それでも1時間ぐらい経ってしまったような、空気の流れ。
「…団先生?」
キュウが、やっと口を開く。メグは無言で頷く。
「そういえば、今日の補講担当は、団先生だったよね?」
「うん…でも、急な出張が入ったみたい」
画面に現れたのは、おそらく常套手段とは若干異なる方法で呼び出したのだろう、団の予定表だった。
「彼女が来た時間は?」
「えぇと、午後2時半ね」
「そうすると、彼女は、団先生、ドクター・ドクロ、七海先生、真木先生、片桐先生、本郷先生の順に会ったって事か…ドクター・ドクロと七海先生は否定しているけど」
カタカタと、キーボードの音が響く。
「本郷先生は、彼女が次に何処へ行こうとしていた、とか言わなかった?」
「ううん…そこまで聞けなかったけど…5分も話せなかったし」
それは、全員同じだった。情報不足は否めない。
「彼女が来たのが、2時半。たぶん、すぐに団先生には会ったんだろうね」
リュウが、カズマの後ろから画面を覗き込む。
「キンタが彼女を見たのが、授業終了直後だから、2時50分ぐらいかな。真木先生の授業だった。そして、3時にカズマが七海先生と一緒にいるのを見た。で、キュウが見たのは…」
「時間は覚えてないけど…掃除が終わった後だから…いつもだと、4時は過ぎている」
「僕が見たのが4時半ぐらい。メグは?」
「そうね…。あ、外でチャイムが鳴ったわ。と言うことは、5時よね」
「七海先生と真木先生との間が、随分あるなぁ」
キンタも覗き込む。押さないでよ、とカズマは一言文句を言って、時間を入力していく。
「七海先生とずっと話していたのか、真木先生となのか。それとも、全然違う場所にいたのか…」
「本郷と会った後の行動も謎だよな。死亡推定時刻が夜中の1時なら、その時までDDSにいたってのも変だし…」
「でも、DDSを出た記録は残っていないのよ。それに、本郷先生が言っていたんだけど、彼女、犯罪予告みたいなことを言っていたって…」
「残っていない?」
「犯罪予告?」
リュウとキュウが同時に発言する。
「残っていない…というと、彼女は一歩も出ていないということか…。誰かの車に乗ったとしても、出る時にもチェックは受けなければいけないし…」
「学校の周りの塀には、監視カメラと警報装置が付いているから、乗り越えるのも無理だし」
「でもよ、リュウが言ったように、誰かの車に乗った場合、その誰かが協力すれば――例えば、乗っているのを隠していたら、記録に残らず出ることはできるよな」
全員が黙ってしまったのを見て、キンタは、俺、変な事言った?と尋ねる。
「それってさぁ、その誰かに他意があったってことにならない?」
小声でカズマが答える。
「車で来ているのは先生達だけだから。それでなきゃ、彼女が勝手にトランクに忍び込んだとか」
「でも、そうすると、何故彼女はここに戻ってきたんだろう?」
「その、誰かに連れ戻されたんじゃない?」
「その方が危険だと思う。ここに入れる人間は、限られているんだから…」
カズマとリュウの会話が途切れ、キュウは、ちょっと、と手を挙げる。
「あのさ、真木先生が気になる事言っていたんだ。大塚――偽者だけど――って人が、真木先生が昔書いた論文に対して、何か言ったみたいなんだよね」
「それって、その女性は、真木先生のことを知っていた、ということなのかしら?」
「そうだね…でも、学会で姿を見た、という可能性もあるし…。僕が気になるのは、何故、当直の片桐先生が何も気がつかなかったか、ということだ」
「あ、あのね。気になることといえば、本郷先生の時計が、いつもと違っていたのよ」
「…そうだった?」
「いや、俺、今日見てねぇ」
「壊れたんじゃないの?」
「あんなナイフ受け止めるような時計が、ちっとやそっとで壊れるかぁ?」
「ちっとやそっとじゃないことがあったら…」
「でも…」
4人のやり取りを、半分聞き流しながら、リュウは1人、考え込む。違和感がある。何かが、引っかかったままだ。パソコンの画面を見る。5人の話が時系列で書かれていた。七海と真木の間に、彼女はどこにいたのだろう。いや、それよりも前から、何かを見落としているような気がする。現場にはまだ行ってはいないが、何か手がかりがあるだろうか。
チャイムが鳴った。