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「片桐先生、すみませんが、少しお時間よろしいでしょうか?」
 そうリュウが片桐を呼び止めたのは、とある教室前の廊下。確かここはBクラスだったはずだが、休みである今日は、不気味なくらいガランとしている。
「何かしら?あと10分ほどで、職員会議が始まるのだけれど」
「ならば、率直にお聞きします。先生は、今朝死体で発見された女性と、昨日の夕方、お会いしていましたよね?」
 微かに、顔色が変わったように見えたのは、気のせいだろうか。
「え、えぇ。ほんの少しの時間だったけれど」
「どんな話をされていたのですか?」
 何故?と、視線で問いかけてくる。ペンダントトップが揺れる。彼女にしてはめずらしい、大振りのターコイズ。
「――当直室で、先生と彼女が話している所を目撃したんです。あまり、仲が良さそうには見えませんでしたが」
「事件の参考人として、来てもらったのよ。昨日で彼女と会ったのは2度目ね。」
「だったら、名前はご存知ですよね?先ほど、七海先生が、身元不明、とおっしゃっていたのですが」
「そう、私もそれを聞いておかしいと思ったのよ。これからの会議で、その事に触れるらしいけど…」
 軽く首をかしげる。その姿からは、昨日の切羽詰ったような言動は、全く想像できなかった。
「ちなみに、先生が伺った名前は?」
「大塚、と名乗っていたわ」
 大塚、と口の中で反復する。
「僕が昨日耳にした会話では、何かを考え直すよう説得していたようでしたが…」
「え?」
 そう聞き返してきた表情は、まるで少女のようで、リュウは思わず一瞬だけ視線をそらした。昨日から、普段見ることのない表情の変化に、戸惑っているとでもいうのだろうか。
「私、そんな事は言っていないわ。天草君の、聞き間違えじゃないかしら?」
 微笑を浮かべ、そろそろいいかしら、と時計を指す。
「それでは――。大塚さんはその後、何処へ行くとか行っていませんでしたか?」
「いいえ。でも話が終わって、彼女、窓の外を見て、挨拶もそこそこに、慌てて出て行ったわ」
「窓の外?誰か、いましたか?」
「あれはたぶん――」
 そう言いかけて、片桐は首を振る。
「たぶん、ではないわね。確かに私の位置からははっきりと見えなかったけれど、本郷先生に間違いなかったと思うわ」
 背中に冷たいものが流れたような気がした。






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