I SAW THAT YOU MEET HER YESTERDAY
「い、一体何の根拠があって君はそう言うのかね?」
飄々としたイメージからは程遠い、狼狽した声。
「あんたがそう言うなら、こっちにも考えがあるぜ!」
ドラマにありそうな捨て台詞の口調は、激しかった。
「言いがかりをつけるのもいい加減にしたまえ!」
その声にいつもの温かみはなかった。
「ね、お願い。考え直してちょうだい」
凛とした立ち振る舞いはどこかへ消えてしまった、悲痛な嘆願。
「自分の言っている意味は分かっているんだろうな」
色をつけるとしたら、漆黒。絶対零度を感じさせる言葉。
平和大国日本といえ、事件が起こるのは日常茶飯事。ましてやDDSの生徒ならば、特異な事件に遭遇するのは――多くは依頼に基づく派遣だが――珍しくない。
だが、まさかDDSで死体が発見されるとは、誰が思っただろう。
その日、DDSはQクラスを除いて授業はなかった。休校日に、彼らだけに特別補習が組まれた、と言ったほうが正しい。
死体を発見したのは、メグとカズマだった。門から本館の横を通って旧校舎に向かう途中。ちょうど、校舎と木々の陰になる場所に、女性がうつぶせに倒れていた。飛び散った血の量はおびただしい。何度見ても、慣れるものではない。思わず声を上げたところへ、少し後ろを歩いていた真木が走ってきた。誰か先生を呼んでくるように言われ、2人はちょうど外出から帰ってきたのだろう、片桐にこのことを報告した。彼女は教室で待機するよう告げ、5人が事件について話していると、七海がやってきた。始業チャイムが鳴って、数分後のことである。
「せっかくの補習なんだが、自習していてくれ。悪いな」
当然と言えば、当然の成り行きだった。
「先生!」
慌しく去ろうとする七海をキュウが呼び止める。
「あの――死体が発見されたって聞いたんですけど、その、詳細は分かったんですか?」
あぁ、そういや美南と鳴沢が第一発見者だっけ。七海はそう呟いて、180度身体の向きを変える。
「転落死。屋上の手すりが壊れていた。死亡推定時刻は今日の午前1時前後。身元は不明。今のところ、それだけだ」
じゃぁな、と手を振って、走り去っていく。
「――そんなはず、ないわ」
メグの言葉に、4人が顔を見合わせる。カズマが言いにくそうに、切り出す。
「うん――僕も、そう思う。少なくとも、七海先生は彼女の事を知っているはずだよ」
「え?真木先生じゃないの?」
「ドクター・ドクロだろ?」
キュウが意外そうに反論すれば、キンタも同様に別の人物の名前を挙げる。
「僕は、片桐先生が知っていると思うんだけど…」
そう言ったリュウに促されるように視線を向けられ、メグは軽く首を振って、口を開く。
「私が見たのは、本郷先生と一緒にいた姿だったわ」
キンタがその女性を見たのは、授業が終わってすぐ。ドクター・ドクロの研究室の前でその部屋の主と。カズマは、3時に――その後すぐに時計を見たといったので――、特殊メイク室の近くで七海と一緒にいる姿を。医務室の近くで真木といる所を見たといったのはキュウだ。リュウは当直室で片桐といるのを、メグは旧校舎で本郷といる所を。
「そう…皆、言い争っている所を目撃したわけか」
リュウが呟く。もう1つの共通点は、そこを通りかかった時、Qクラスは用事を頼まれており、急いでいた、ということ。その女性と講師の会話はせいぜい一言二言しか聞いていない。だが、あまり穏便な話をしているとも思えなかった。あの状況で、彼らが自分達を認識していた、というのは難しいだろう。
「だから、その女性の事を知らないなんて、おかしいよね」
カズマがメグを見る。彼女の手元には、瞬間記憶能力によって描かれた2枚の絵。昨日見かけた時と、今日発見した時の、女性の姿。
「今日は、顔は見なかったけれど、服装は昨日と全く同じだったわ。屋上からの転落なら、顔の判別がつかないこともあると思うけど、先生達なら分かるでしょ?」
「昨日のことがあるなら、なおさらな」
「昨日のことがあるから、なおさらかもしれない」
キンタのセリフを引用したリュウの言葉に、4人は、驚いて顔を合わせる。
「ちょっと、リュウ、まさか先生達を疑っているの?」
「もしもこれが事故でなく、殺人事件なら、その可能性は高い」
「おい、オメーなぁ、いくらなんでも…」
「でも、リュウ君の言うとおりだと思うよ。事件であるならね」
Qクラスの上位2名の言葉に、残りの3人は言葉に詰まる。
「…だったらさ、オレ達で調べない?」
「ちょ、ちょっと、キュウ!」
キュウのおもむろな提案に、メグが慌てて反論を試みる。
「オレ達だってDDSなんだよ?しかも今回はメグとカズマが第一発見者だし、全員が昨日、被害者を目撃しているんだ。第一、ここで議論してても、埒があかないと思う」
「僕も同意見だ」
「…でも…」
「ねぇ、メグ。別に、先生達を容疑者にしようって訳じゃないんだよ。何でその女性のことを隠しているのか分かれば、すっきりするじゃん?それに、今は自習なんだし――」
キュウの説得を聞きながら、リュウは顎に指をやる。そもそも、深夜、DDSの屋上に一般人がいる、という時点で、ただの事故でないことは明らかなのだ。それにしても、何かが引っかかる。