校医も兼ねている真木は、医務室にいた。何か保健室って落ち着かないんだよなぁ、と、キュウは少しソワソワしながら、椅子に座った。真木は書き物をしていたが、ボールペンを持ったまま、キュウに向き直る。
「どうしたんだい、キュウ君。具合が悪いの?」
「いえ、そうじゃなくて、その――真木先生に伺いたいことがあって」
「ん?」
「真木先生、今朝発見された女性と、昨日会っていましたよね?」
真正面から、少しも外さない視線。自分は確かに見たのだから。
「――あぁ、彼女のことか。うん、会ったよ」
真木の返答に、キュウは気を殺がれたようにポカン、と口を開けた。
「えぇと、じゃぁ、何で女性の身元が判明しないんですか?会ったなら、名前、知っているんじゃ?」
「会った、というより彼女が突然ここへ来たんだ。どうやら迷ってしまったらしくてね。この校舎はちょっと入り組んでいる所もあるから…。来客だろうけど、校内にいるのであれば、私のほうで身元を調べる必要はない、と名前は聞かなかった。だから、さっき身元の判別はまだ、と聞かされて不思議に思ったところなんだけどね」
はぁ、なるほど、と納得しかけて、キュウは首を振る。
「そうじゃなくて、いや、そうなんですけど!俺、先生とその人が言い争っている所を見て――」
「言い争っている?」
意外そのものといった表情で、真木が聞き返す。ボールペンを弄びながら、しばらく天井を見ていたが、どんな話をしていた?と聞いてきた。
「言いがかりがどう、とか…」
「…そういえば、彼女が気になることを言ったけど…そんな言い争いまではやっていないよ。彼女もすぐ去ったし」
「気になること?」
「いや、昔の、私が書いた論文についてね――」
「え?」
コンコン、とドアがノックされる。顔を出したのは、七海だった。手には湯気の立つカップ。
「真木先生、職員会議が――」
キュウに目を留め、おやぁ、と一瞬笑ったような気がした。
「はい、すぐ行きます。それじゃぁ、キュウ君、これで」
「あ、あの。最後に1つ。その女性は、何処へ行こうとしていたんですか?」
七海がドアから離れたのを確認して、真木は若干声を落とす。
「片桐先生の所在を聞いてきたんだ。彼女は昨日、当直だったからね。当直室か、講師室に、それでもなければ学園長室だから、講師室にいる誰かに案内してもらうといい、と言っておいたけどね」