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「一行まるまる偽者ってんだから、あきれたね。その労力を別のところに使えないもんか」
 実際呆れ顔で七海は窓枠に腰掛ける。街道をひた走り、七海はとある一行に出会った。大きな藁で包んだ四角い荷を持っている。もしやと簪を見せれば、大名の妹のものだという。荷車の車輪が壊れ、予定より遅くなる旨を伝えに、付き人と二人で一足早く江戸へ行ったのだと。
「あの二人は偽物に殺された。荷車を殺したのも偽物で、目的は旅籠から金を巻き上げること。確かに氷を返すのは、できることじゃないな」
 七海はすぐに戻り、連城に知らせ、それは遠山奉行に伝えられ、旅篭にいた偽者一行は捕まった。真相を白日のもとに晒すのは、欠月の役目ではない。
「でも、今更あの二人が殺されたと、お上は認めるかな」
「認めるだろう」
 奉行所の裁定が覆るのは稀だ。しかし、今回は偽者達が認めている上、半刻もすれば大名が江戸に入る。さすがに彼らのことを無下にはできまい。
「骨になった件は動物の仕業で終わらせたのか?」
「紫乃が言うには」
「何だ、さっき出かけてたのは饅頭屋か。土産は」
「金太郎の留守番代だ。桜子に饅頭を取られて食べられなかったとしょげていたんでな」
「太るぞと言えば二つとも食えたのにな。で、紫乃が」
「殺した事は認めたが、骨にしたとはとんでもない、そんな馬鹿なことはやらない、との言い開き。お上もそれについては、追求していないらしい」
「まぁ、方法が分からねぇしなぁ。やっぱり鬼だろう」
「そうだな」
 どすんという音が聞こえた。振り返れば、七海の姿がない。
「どうした」
 外を見ると、屋根の上に七海がひっくり返っていた。通りを往く人が何事かと伺っている。
「いや…お前が、鬼がいるなんて言うもんだから、驚いた」
「瓦は熱くないのか」
「熱いに決まってるだろ」
 立ち上がり、往来に向かってお辞儀を一つ、部屋に戻る。
「偽者達が持ってきた荷物は」
「木枠を藁で巻いたもの」
「ばれるだろ、そんなの」
「宿の人間には触らせなかったようだ」
「なるほど。藁も木も、薪として蔵に押しこめれば片付くしな。あぁ、そういや」
 手をひらひらとさせる。
「傷、良くなったぜ。お代は俺の笑顔ってことで」
「いらん」
「お前、笑顔の力を分かってないだろ。いいか、笑顔ってのは」
「往診に行ってくる」
 七海の講釈は無視して診療所を出た。闇太郎のことは聞かれていない。年老いた猫は姿を隠す。そう思っているのかもしれない。
 赤ん坊の傷はすっかり消えた。親にはねずみだろうと答えたが、闇太郎に間違いはない。物の怪が残したものは、それ自体が消えれば同じく消える。しばらく追われることになりそうなねずみには気の毒な事をした。
 帰り道、何気なく目に入った木戸看板につられ、木戸をくぐる。入口に小さな表札が出ている裏店の前で足を止める。ご免、と戸を開ければ、男が寝ていた。
「商いは」
「やってますよ。ただ、こんだけ風が吹かないんじゃぁ、流しても仕方なし、今は副業ばかりで」
「なら、良く回って見栄えがいいものをひとつ」
「お子さんにですか?」
「――そんなところだ」


 日は沈んでも暗くなるにはまだ時間がある。それでも通りからは人が消えて行く。
 ――――変わったものを買いなさったなぁ
 窓から身を乗り出して作業をしていた本郷に、声がかかった。屋根瓦だ。
「これで出てきてくれるといいんだがな」
 ――――喜びますよ、きっと
「お前も嬉しそうだな」
 ――――相撲の約束をしていますんでね
「誰と」
 ――――薬問屋の屋根瓦と
「あそこの瓦も付喪神だったのか」
 瓦同士の相撲はどんなものなのか気になるところだが、いくら本郷とても彼らの邪魔は出来ない。今宵は彼らのものだ。
「割れて帰ってくるなよ」
 我ながらおかしな事を言って、傍から見るとただの独り言と作業を終えた。できるだけ人の目に触れないよう、しかし分かるように屋根下にくくりつけた鮮やかな千代紙は、指で回すとくるくると回った。


 丑三つ時。
 屏風の向こうからは寝息が聞こえる。今日は誰もがおとなしく床につく。外のざわめきを確認する術はない。月のない夜は、人のものではない。
 カラカラと、僅かに開いた障子から風車の回る音がする。
 ちりん、と風鈴が鳴った。




09/05/30
本当はもう一つ話があって、それも含めてオールキャラでドタバタでしたが、あまりにまとまらないので削除しました。そうしたら逆にスカスカになった気がしないでもないですが。
なのでQクラスがちょっとしか出ていなかったり、ドクロちゃんや犬塚(ケルベロス)や唐人(カロン)が出せなかったり、少々心残りが。でも、こういうのは楽しいですね。
ちなみに物の怪の名前ですが、漢字にすると、ゆめみ=夢見(夢見草=桜)、あや=東風、そら=天、です。



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