「迷路小路とはよく言ったものだわ」
小さくため息をついて、紫乃は辺りを見渡しました。昔ながらの風景。少し歩けば分かれ道、進めば木塀が先を塞いでいます。さっきから2人は行ったり来たりを繰り返していました。
「駅から近いし、開発が進んでも良さそうな場所だがな。事実、隣町の発展は著しい」
「そうね。こういう町並みは好きだけど」
大通りを挟んで立ち並ぶ大型のスーパーマーケットやマンションよりはマシだ、という意見は一致しましたが、それが何かの役に立つとも思えません。
「本当に、この辺りかしら」
「スーパーの店員に聞いたら、いつもあの角から出てきていると言っていた。ずっと見ていたわけではないだろうが、確率が高いのは」
「ワン」
犬の鳴き声に、2人は足を止めました。
「コウタロウ?」
紫乃の呼びかけに、犬は返事をするかのように1回、鳴きました。しかし、どこから聞こえてくるのは定かではありません。路は木の塀がぐるりと囲み、夕暮れ時も手伝って、異世界に迷い込んだかのようです。耳を澄ますと、ぱたぱたという音が足元から聞こえました。
「こんなところに」
足元に、小さな戸。それが風に吹かれているように、ぱたぱたと動いています。紫乃はかがんで、戸口を押し、あら、と声を上げました。
「ねぇ、ちょっと見てみて」
「何だ?」
戸口の向こうは、やわらかい緑の芝生が生えていました。しかし今は、疑うことなく11月初旬です。
本郷は立ち上がり、少し背伸びをして、上から塀の中を覗いてみました。
「芝生らしきものは見えないが」
留守なのか夕暮れだからか、家の雨戸は閉まっています。庭には木が植えられていましたが、葉は落ちて、差し込む夕日がやわらかく、少し寂しげに一帯を照らしていました。犬の姿も見当たりません
「…でも」
紫乃は改めて風景を眺めました。天気の良い春の午後。緑の芝生と、色とりどりの花。家もありません。ふと、遥か向こうに白い犬らしきものが見えました。
「入ってみる?」
「入れるのか?」
「何とか、出来そうな気がするわ」
<入る>
<やめておく>
<その前に七海は?>