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 まさに麗らかな春の午後でした。暖かく、かといって暑くなく、風は優しく、甘くみずみずしい香りを運んできます。緩やかな傾斜に沿って、2人は歩いていました。そんな光景と裏腹に、本郷は、2人とも入ったのは間違いだったかもしれないと考えていました。あの戸口はくぐり抜けた途端、跡形もなく消えてしまったのです。つまり、元の路に戻ることが出来なくなった、ということです。そんな状況で歩みを進めているのは、あの場所にいても、何の情報も得られないという紫乃の判断でした。
「北海道みたい」
 先頭を行く紫乃は、嬉しそうに言いました。
「北海道?」
「空がとても広いわ」
 確かに、電線も電柱も見当たりません。高い建物がないのです。それどころか、建物自体が見えません。丘の向こう側に、何かがあるかもしれませんが、ここには、花と、背の低い潅木と、切り株。唯一、背丈があるのはイチジクの木でした。熟れ頃らしく、いくつかは実が割れています。
「あら?」
 紫乃が目を留めたのは、バラの木でした。綺麗に手入れされていましたが、おかしなところがあります。
「色が」
「…赤いペンキで塗られているようだな」
「酷いことするのね。とても綺麗な白なのに」
 そのバラのいくつかは赤く塗られ、いくつかは中途半端に2色、全く塗られていないものもあります。塗っている途中だったのでしょうか、傍にはペンキの缶が置いてありました。しかし、塗っていたであろう人物は見当たりません。
「白いバラに赤いペンキ…」
 紫乃は何かを思いついたように呟きましたが、突然響き渡ったラッパの音にびっくりして振り返りました。本郷は、何が起こったのか確認しようと丘の頂上に急ぎました。
「どうしたの?」
「クローケーとやらが始まると、誰かが叫んでいた」
「それって、不思議の国の」
 その言葉も最後まで続きません。多くの動物が向かってきたのです。筆頭は、ハリネズミの集団が。その次に紅鶴の集団。その後は人の集団のようでした。「捕まえろ」とか「縄を持て」とか叫んでいます。本郷は、その集団の中に奇妙なものを見つけたような気がしました。しかし、確認する前に行列の先頭が近づいてきました。本郷と紫乃は慌てて道を開けました。



<右に避ける>
<左に避ける>



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