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「どこかしら、ここ…」
 紫乃は森の入り口に立っていました。何かを避けようとしたということは覚えているのですが、そこは森ではなかったはず。それなのに、まるで夢から覚めたようにおぼろげなのです。「確か、不思議の国のアリスのお話の中にいるような感じだったわ」ということは覚えています。本郷と一緒にいたのはいつまでだったかは思い出せません。
 ふと上を見上げた紫乃は、思わず声を上げました。猫が木の枝の上にいたのです。
「チェシャ猫!」
 話に出てくるそのもののチェシャ猫だと思いました。「にやにや笑う」というのを「チェシャーキャット」ということを紫乃は知っていました。
「あの」
 声をかけてから、紫乃は少し迷いました。何と聞けば、望む類の答えが得られるのだろうと。
「男の子を探しているんですけど――黒い学生服を着た。ご存知、ありません?」
「男の子なら、いくらでも。学生服を着たのも、いくらでも」
 はて、この時代に学生服といって通じるのか、という疑問もありましたが、チェシャ猫は答えました。この猫相手に、『普通の』質疑応答が難しいのも、重々承知でしたが、本郷の特徴をあげようにも、チェシャ猫相手に、どう説明すればいいのか分かりません。なぜなら、猫から見た人間がどのような姿なのか、分からなかったからです。
「じゃぁ…この左右の道、どこに出られますか?」
「左の道は」
 チェシャ猫は、尻尾を不自然な90度に曲げて道を差しました。
「奪われたものがどこかに」
「…え…?」
「こっちは」
 ぐるん、とそのまま尻尾を回して反対の道を指しました。
「明かりがあるはずだ」
 何のことを言っているのか、さっぱり分かりません。右の道に明かり、左の道は奪われたもの。
「ただ、どちらも道は続いているよ」
 最後にそれだけ言って、完全に見えなくなりました。
「…本当に、不親切だわ」
 道を聞いた相手が全て親切だとは思わないけれど。そうは言っても、ここにとどまっていても何も解決しないような気がしたので、紫乃は分岐点までやってきました。
「右は明かり…あら?」
 明かり。英語で「light」です。そして右は「right」。左は「left」。奪われたもの、は「reave」の過去形「reft」。
「rとlが逆になっただけじゃない!」
 分かったところで何も解決していません。半ば自棄気味に、紫乃は歩き始めました。



<左の道を行く>
<右の道を行く>



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