「奪われたものって何かしら」
宝とか、そういうもの。でも奪われたってことは、奪った人がいて、見張りでもしているんじゃないかしら。少し軽率だったかしら、とひとりごちながら、紫乃は歩みを進めます。森はすぐに切れて、なだらかな上り坂が続く草原でした。
登りきると、眼下に城が見えます。城というよりも遺跡というイメージに近い、と思いました。形自体はお城なのですが、古く、所々朽ち果てている箇所もあり、何よりとても小さいのです。周りの風景と全くあっていません。
「奪われたもの…」
それはもしかして遺跡そのものかしら、と紫乃は城へ向かいます。近づくと、城の正面に見慣れた姿がありました。
「七海君?」
「あ、紫乃ちゃん!」
七海は、何か考え事をしていたようでした。
「良かった、会えて…。でも、どうしてここにいるの?」
「…えーと…。や、こしょうまみれの家から出てきたんだけど…」
本人は説明しようとしているのでしょうが、うまくいかないようです。それは紫乃も同じ事でした。どうしようかと話し合っていると、とたんに、城の中は騒然とし、何となく面白かったのでそのまま傍観していると、声が聞こえてきました。
「あの者は何者だ!」
「誰も存じておりませぬ」
「盗人か!」
「かもしれませんが、動く気配がありません」
「ん、で終わったぞ、貴様!」
それの何が問題なのか、しばらく会話を聞いていると、どうやらしりとりと同じように、相手が言った言葉の最後の文字から話をしなければいけないようです。
「…暇人…」
そうは言ったものの、今の自分たちも何をしていいのかわからない以上、似たようなものでした。
「本郷も来てるのかな?」
「さぁ…。あら、でも、あれ」
紫乃が指差した方向は、確かに見覚えのある姿でした。噂をすれば何とやら。七海が大きく手を振ると、本郷も気がついたようで、少し足早にやってきました。
「お前、いままでどこにいたの?」
「…聞きたいか?」
「…聞いて理解できる内容なら」
「ならば、やめておく。とりあえず、コウタロウは見つけられなかったが」
そういえば、当初の目的はそんなような気もしましたが、はっきり言って今はそれどころではありません。お前の律儀さには頭が下がる、と七海は肩をすくめました。そこへ突然、城だか遺跡だかの窓が開きました。ジャックの柄をしたトランプが一歩進み出て、声を張り上げます。
「お前たちは何者か!」
「…DDS…?」
トランプにではなく、2人に尋ねるように答えても、おそらく彼らの望む類ではないだろう、と言った七海自身がそう思いました。
「お前たちは、違法である!」
「…それってオレたちの存在自体を否定してるのか?」
「確かに、彼らから見れば、俺たちはおかしな存在だろうな」
「トランプと人間じゃ、見た目も違うものね」
そんな会話は完全に無視して、トランプは叫び続けます。
「よって、これから裁判を行なう!」
「はぁ?!」
途端に、地面が揺れ、城の後ろに大きな建物が現れました。
「おい、本郷、あれ、何だ?秘密基地?ロボットとか出てくるのか?!」
若干、興奮気味の七海に、トランプは持っていた槍をビシッと向けて、こう言いました。
「中へ入れ!すぐに判決が下る!」
「…秘密基地ではなさそうだな」
ぽつりと呟いた本郷の方へ振り返ると、彼は彼で後ろを向いていました。つられて見れば、いつの間に集まったのでしょう、大勢のトランプが槍をこちらに向けていました。
<裁判所へ>