00:15 AM
「ドクター・ドクロ?」
さらに重なった警報に、まず団の身の安全を確保してから、片桐は研究室に足を踏み入れ、その惨状に絶句した。研究室、というよりも彼自身と、彼の私室に、である。
「いやはや、まいったねぇ、これは」
いつも黒がメインの部屋は、消化剤で真っ白になっていた。さらにスプリンクラーによって水浸しになり、全身を湿らせたドクター・ドクロはどこから片付け初めていいのか、途方に暮れていた。飛び入り参加の2人の探偵も、気味悪そうにコレクションを眺めている。
「火事じゃなかったんだよ。単なる発煙筒だけどね。ほら、警報装置の周りをカバーで囲まれていて、煙が充満してから外されたもんだから、びっくりして。その隙に逃げられちゃったよ」
「…普段暗いから、仕掛けられた事に気がつかなかったのかもしれませんね」
「おや、痛い一言。ところで、犯人の2人は?」
「それが、戻ってこないんですよ」
普段なら、すぐに講師室に集まるものなのに。まさか、逃亡の手立てまで考えていたのだろうか。
「ところで、盗まれたものは何でしたか?」
00:20 AM
「どこまで行く気だ?」
「んー、もーちょっとかなぁ。さすがに追ってこないだろうけど」
ところで聞きたいことがあるんだけど。視線は前方のまま、七海は口調を変える。
「実際、人に向けて発砲した気分はどうだった?」
海外出張の際、状況によっては事前に他国で射撃訓練を受ける事がある。それは、自分が撃てるようになるため、というよりは、相手が持っていた時の対処のため、である。七海と比較して――さらにいうならDDCの中でも、本郷はかなりの回数の訓練を受けていた。
「――それを聞いてどうする」
「滅多にない経験だろ?少しくらい聞かせてくれたっていいじゃねぇか」
無邪気な子供のような瞳を向ける。視線を逸らし、手もとの銃を見る。モデルはS&W M49 BODY GUARD。
「…何故犯罪者が銃を好むのか、少し解かる気がする」
「へぇ?そんなに爽快なものか?」
違う、と否定する。
「人の命を奪ったという感覚が、微塵も感じられないからだ」
00:25 AM
光の戻ったDDSを背に、片桐は門へ向かう。団に2人が戻ってこないと伝えたところ、案外近くにいるのでは、という答えが返ってきた。校舎をざっと見まわっても、医務室に閉じ込められた者と、使い古された罠に引っかかっている者を見ただけだ。
「あら――」
まさか、こんなところにはいないわよね、と確認のつもりで覗いた門の外。
「…お疲れ様です、本郷先生」
「…どうも」
門柱に寄りかかっていた本郷とまともに目が合い、どうしたものかと思いながらも適当な言葉が見つからず、随分と拍子の抜けた挨拶をする。
「紫乃ちゃん。遅かったじゃん」
影から七海も顔を出す。手は、何やらコントローラのようなものを操作している。
「七海君、それは何?」
「あぁ、俺ら今、お宝持って逃亡中だから」
「え?」
近くまで寄ると、アタッシュケースの内側に液晶パネルがはめられており、地面が映し出されている。車体の前方にカメラを取りつけると、ちょうどこのような映像になるが――。
「これって、もしかして――」
「ご名答〜。これでも俺、子供の頃ラジコンカーレースで常に上位入賞してたんだぜ」
「そうじゃないでしょ?!研究室の情報を、よりによってラジコンなんかに――」
「あ、そっちは本郷がちゃんと持ってるから。いくら俺だってそこまで馬鹿じゃないよ」
そうかしら、と片桐は冷ややかな視線を送る。
「とにかく、講師室に戻りましょう」
「はいはい――あ」
ヤバッと短く声をあげた七海は、しばし画面を見つめ、目を丸くし、苦笑してケースを閉じる。
「予定外の参加者に、妨害されたよ」
本郷は見たことか、と踵を返す。そこへ駆け寄ってきたのはドクター・ドクロ。随分と慌てふためいて、七海に詰め寄る。
「七海ちゃんっ!エリザベスのリボン、どこにやったんだい?!」
「あー。逃走中に車がひっくり返って、猫の遊び道具になった」
「えぇっ?!あれ、彼女の一番のお気に入りなんだよ?!」
「あ?そうなの?それは悪かった」
「全然、そう思ってないでしょ!いいかい、あれはね――」
「…本郷先生。『お宝』って…」
「…それについては、ノーコメントでお願い致します」
思わず目が点になった片桐に、本郷は歩みを進める
00:30 AM
「月曜の朝までに修復できる程度、と団先生はおっしゃっていたけれど、それ以上の被害が出ている気がするわ」
まだかすかに赤い霧の痕跡が残る廊下を歩く。
「そんなことはないぜ?」
操縦不能になったコントローラを弄びながら、七海は反論する。
「学園長室の窓ガラスは、ちゃんと業者に頼んであるから、今日の午前中に電話がかかってきて、午後には作業できるはずだし。ドアノブはおかしくなっててもすぐに取り変えられるし、ドクロちゃんの部屋は本郷の手にかかればちょちょいと」
「自分のしでかした事の始末を人に押し付けるな」
「えぇー?私一人でやれっていうの?ひどーい。薄情な男はもてないわよー」
普段と変わらない2人のやり取りに笑いつつも、片桐は内心舌を巻く。結局、全て彼らの予定通りだったという事なのだろうか。
「それにしても、どんな計画を立てていたの?完全に作戦通り?」
先程、コンセプトは国際スパイ、とは聞いた。確かに銃や化学兵器を持った輩が来ないとは言いきれない。それでこの様だ。もし、2人が真っ直ぐ研究室に向かっていたら多少とも抵抗は出来たのに、というのは負け惜しみだろうか。
「作戦通りって言ってもなぁ。時間配分だけは、綿密に何度もやったから完璧だったけど。それ以外は、大雑把な分担だけだし」
あっさりとした七海の答えに、思わず驚愕の声が出る。
「医務室での時間合わせと準備の1分間を除いて、誤差は最大20秒。もしその間に所定の場所に相手がいなかったら、各自で行動を起こす。まぁ、別に組まなくても楽勝だからね」
自由自在な作戦ほど完璧なものはないだろ?
――それはつまり、相手を信用していて、なおかつ頼らないということではないのだろうか。もし口に出したら、たちまち中学生並の喧嘩が始まりそうだが。
「――まぁ、旧校舎に被害が出なかっただけでも良しとするわ」
「何言ってるの、紫乃ちゃん」
七海が振り返る。迷惑そうな視線も何のその、本郷の肩に手を回して笑う。
「俺らが、団先生の『大切な場所』を壊すと思ってるの?」
041105
珪砂さん宅にて開催されたハロウィンパーティーに参加させていただきました。テーマは『夜』。さらにハロウィンなので、「Trick or Treat」ということで、あくまで悪戯です(笑)。パーティーですから、ちょっとドタバタぎみに。七海ちゃんはこういうの大好きそうですけど、本郷さんはどうなんでしょうね?とりあえず、七海ちゃん=盗賊、本郷さん=狙撃手で