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COUNTDOWN TO BE A CRIMINAL


 11:50 PM

 遥か昔は、得体の知れない魑魅魍魎が跋扈すると言われていた。今では、ある意味得体の知れない人間達が横行する夜。
「何で犯罪者が元気なのは夜なんだろうと思っていたけど、分からなくもないな」
 これからの事を考えているのか、自然と高揚してくる気持ちを素直に表情に出す七海。
「少しは冷静になったらどうだ」
「少しは楽しもうって気にはならねぇのか?」
 かの団守彦公認の『犯罪者』となる記念すべき夜に。

 11:51 PM

 防災・避難訓練というのは、どこの学校・会社でもやることだ。それはもちろん、DDC・DDSでも同じ事。さらに一部の組織ではあるシミュレーションの元、予行訓練が行われる。警察然り、消防署然り。そしてDDC・DDS然り。
 DDSのは一種の鬼ごっこ、と形容したのは七海だ。追われる者と追う者。しかし遊びではない。機密情報を盗み出す者と断固としてそれを阻止する者。そのどちらもが探偵であり、しかもシナリオは存在しない。『犯罪者』はいかに犯行を完遂するか策を練り、『追跡者』はあらゆる可能性を考え迎え撃つ。
 年に1,2回と決まっているわけではない。この予行訓練は、言ってしまえば団守彦の気まぐれで行われる。

 11:52 PM

 『犯罪者』は予め団から指名される訳だが、それを周囲に知らせるかどうかは、その時々だ。日時も、ターゲットも、それこそ『開催』自体を告知しない場合もある。警報装置が鳴り響いて、初めて知るという事もありうるのだ。発表がある時期も、前日だったり1週間前だったり、規則性はない。目的の物を盗み出しDDSの外へ出れば、『犯罪者』の勝利となるらしい。探偵としての推理力よりも、『犯罪者』としての計画性、行動力、頭の回転速度が必要とされる。もっともそれは探偵としてもプラスになることではあるが。『追跡者』にとっては、それに加え組織の団結力も試される。

 11:53 PM

 日時は土曜の夜から、日曜にかけて。目的は科学班研究室の『何か』。そして侵入者は、本郷と七海。職員会議で団から発表があったのは2週間も前だ。ほとんどの情報が提示されるという、『犯罪者』としては一番厳しい条件。だが、普段と違ってもう一つ付け加えられた事。『月曜の朝までに修復できる範囲であれば、何をやっても良い』。それを聞いて、一層顔を強張らせた他の職員達とは裏腹に、願ったりと笑みを浮かべた七海と微かに目付きが鋭くなった本郷。日時が告知された場合には、さらに条件が加わる。全員が普段と同じ――当直のものは当直室に、他の職員は講師室に、片桐は講師室か団の傍に、ドクター・ドクロは研究室に、いること。『犯罪者』が行動を起こすまで『追跡者』は手が出せない。

 11:54 PM

 本郷がDDSに来てから、おそらくは誰もが考えた組み合わせだろう。DDCでも図抜けて優れていると団から評される2人。それが手を組んで敵に回ったとしたら、俺達は何人で対抗すればいいんだろうな。そんな泣き言を笑いながら言った同僚達は、まさか実現するとは思っていなかっただろう。そもそも、その根拠は、2人の相性がよくない、というただそれだけのことだった。
 命令ならば、特別な理由がない限り拒みはしない。団が最適と考えているのだから、それに応えるのが当たり前だ。

 11:55 PM

 時計を合わせる。見えるものはDDSを取り巻く外壁だけ。街灯の光りはほとんど届かない。塀に沿って監視カメラは何台か配置されているが、ここが死角になっているのは実際にモニタを見た事がなければ分からないだろう。ほんの1メートルの間だけなのだから。内部情報を知っているという点では、普通の犯罪者に比べて有利だ。それは追う方も承知の上。本郷と七海が講師室を出たのは1時間前。何人かは、ここにいるかもしれないと見当をつけているはずだ。
 なるほど、と本郷はひとりごちる。これはもはや予行訓練というよりは、勝負だ。

 11:56 PM

 過去の結果はほぼ同等。所要時間は、10分で『犯罪者』が捕まったのが最短、30分で『追跡者』が振りきられたのが最長。
「旧校舎のほうは問題ないか?」
「ない。そっちは大丈夫なんだろうな」
「まーったく問題ない。仕掛けもばっちり。まぁ、気がついて外されたとしても、なんら支障はねぇよ」
「気づかれるようなものを仕掛けるな」
「いいじゃねぇか。一種の目くらましにはなるんだし。実際、フェィクもいくつかあるぜ?」
「…それは聞いていないぞ」
「あ。そうか。でもまぁ計画には関係ないし、お前がひっかかりそうなもんじゃないし」

 11:57 PM

 この2週間、暇さえあれば――むしろ無理やり時間を作って、綿密に計画を立ててきた。相性の良い悪いは、いざという時はどうとでもなるものだ。横目で「相棒」を見る。いつもの服装に黒い皮手袋、といった出で立ちは犯罪者そのものだな――。実際のところ、こいつと一対一でこの鬼ごっこをやれと言われたら、あまり気乗りはしない。しかも今回は『武器』を所有しているのだ。
「今回は極力『武器』を使えよ?今日の俺らは『国際的スパイ』ってコンセプトだから」
「言われるまでもない」
 ホントかよ、と心の中で混ぜ返す。実際のところ、コンセプト云々より本郷と鉢合わせてしまった人のことを考えた結果なのだが。武器を持っている時よりも素手のほうが手ごわい人間なんて、そうそういないだろ。

 11:58 PM

 最要注意人物は、あの時、七海以外に笑みを浮かべた人物。ドクター・ドクロ。DDSのセキュリティシステムも彼の考案するところだ。何かしらの罠をしかけているのは間違いないだろう。2週間という期間は、相手にも対策を練る時間を十分与えた。だからといって、負ける気はない。視界の端で呑気に口笛を吹く「相棒」。明らかに楽しんでいる。それだけ余裕があるのだ。しかし、いつもの服装に、本人いわく『7つ道具』が入ったアタッシュケースを持つ姿は、侵入者というより詐欺師か押し売り業者だな。
「あまり、道具を当てにするなよ――特に博士の作ったものは」
「言われるまでもねぇよ」
 もっとも、いざとなれば、その身ひとつで切り抜ける事ぐらいは出来るだろうが。

 11:59 PM

「一回深呼吸でもしておくか?」
「何の為に」
「団先生も、息を合わせて、って言ってたじゃねぇか」
「例を実行に移すな」
「へいへい――あ。余裕があったら、エリザベスもいただいてこよっか」
「余計な事をすると、痛い目にあうぞ」
「わかってるって。言ってみただけ」
 1歩踏み出す。監視カメラの死角の外へ。目指すは最短時間での『勝利』。
「んじゃー、ちょっくらお宝、貰ってきますか」
 監視カメラに向かって七海はVサインをしてみせる。宣戦布告。

 00:00 AM

 警報ベルが鳴り響く。
 闇に白い影が、光に黒い影が、浮かび上がり瞬く間に消える。



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