法廷の中には、大勢の生き物がいました。トランプの兵隊も生き物といえば、ですが。合間を縫って、傍聴席の一番前に出た3人は、あ、と声を上げました。被告として裁かれているのは、どうみても豚です。裁判官はハートの王様と女王様。弁護人や検察官は見えません。
「あぁ、そうね。ここは19世紀のイギリスだから」
紫乃が独り言のように呟きます。あの12人は陪審員。ラッパを吹いている白うさぎは伝令係と言ったかしら。でも被告はハートのジャックだったはずだけど。ぐるりと見渡しても、それらしき姿は見えません。代わりに、豚がパイを取っただの取らないだのと言い争いが起こっていました。もっとも、当の豚はぶぅぶぅ言っているだけでしたが。
「そこの3人!」
ハートの女王様が突然、叫び、3人を指差しました。
「これは、お前たちの豚か?!」
「いいえ」
紫乃が答えると、女王は怒りをたぎらせ「嘘を言うな!」と怒鳴りました。
「嘘などついておりません」
「俺たちが探してたのは犬で――」
続けた七海の言葉に、女王はふん、と鼻で笑いました。
「ならば、お前たちのではないか」
「だから…」
一体どこに共通点が、と反論しかけた七海は、本郷が「Doublets」と言うのを聞き逃しませんでした。
「何だ、それ。ダブレット?タブレットじゃなくて?」
「犬にしてみよ!さもなくば、首を切れ!」
何でだよ、とげんなりした七海を他所に、本郷は立ち上がって言いました。
「Pを取ってFをつける」
女王は面白くなさそうに、トランプの兵士に、その通りにやれ、と命じました。兵士が3人(3枚)やってきて、豚の背中からPを取り出し(どうやったのかはわかりません)、ペンキでFと書きました。とたんに豚はイチジクに変化したのです。
「Iを取ってOをつける」
同じことが行なわれました。そうすると、イチジクは跡形もなく消えてしまいました。残ったのはうすらぼんやりとした霧。
「Fを取ってDをつける」
霧のどこからFを取ってDを書くのか、七海も紫乃も注意深く凝視していましたが、結局分からずじまいでした。それでも兵士達はその通りにしたのです。すると――。
「コウタロウ!」
「ワン」
七海の声に、一声、コウタロウは一目散に駆け寄ってきました。
「あの者たちの首を刎ねよ!」
女王が真っ赤な顔をして怒鳴り散らしています。兵士達は槍を持って3人と1匹を取り囲もうとしました。
「これ以上、茶番に付き合っているつもりはない」
しかし、本郷に睨みつけられ、それ以上近寄れません。
「帰るぞ」
「え?」
「帰るって?どこからどうやって?」
「とりあえず、ここを出る」
回れ右をして、込み合う動物達を押しのけて、本郷を筆頭に、3人と1匹は扉へ向かいました。背後ではなおも女王が「首をはねよ」と喚き散らしていました。
<外に出る>