確かに、野原でした。あの路から覗いたそのままの。
「でも、どうしてここに来たのかしら?」
紫乃は佇んだまま、今までの事とこれからの事を考えようとしましたが、どちらも役に立ちません。見渡す限り、ヒントになるようなものもないし、道もありません。少し心細くなりました。明るい情景がせめてもの救いです。
微かに声が聞こえ始めました。丘の向こうからのようです。
「あっ」
現れたのはウサギでした。白いウサギ。チョッキを着て懐中時計を持って、「困った、困った」と言いながら一目散に走ってきます。
「不思議の国のアリスの、白ウサギだわ!」
あら、そうすると私はアリスなのかしら。確かに服の色は同じでも、制服のままですし、特に変化はありません。ただ、少なくとも、それならこれは夢ね、と落ち着くことは出来ました。ミもフタもない話ですが、そう思うことで安心が得られるのだから、選択としてはよいだろうと思ったのです。不思議の国のアリスは昔から好きでよく読んだ本ですから。
ともかく、紫乃はウサギの後を追いました。お話ではウサギ穴に入るのですが、白ウサギはまっすぐ森へ向かいます。最初の場面は終わってしまったのかしら、と走りながら、辺りを見渡しました。最初の場面にも取れるし、あの小さな扉を入った後の庭園にも思えます。小さな扉、といえばあの戸口かしら。庭園なら、トランプの兵士とかがいるはずだけど、見えないわね。そうこうしているうちに、白ウサギは家の中へ入りました。「白うさぎ」と書かれた、家です。お話ではアリスが召使と間違えられて手袋を取って来いと言われ、やって来た家。どうやらアリスがいなかったようなので、白ウサギは自分で取りに来たようです。「パット!パトリシア!」と叫ぶ声に、「なんですかぁ」とのんびりした女性の声が聞こえました。はて、召使の名前はメアリとかそういうものだったはずですが、家から出てきたウサギが一目散に自分に向かって走ってきたので、紫乃は慌てて避けようとしました。
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