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 冷たい飲み物でも入っていればラッキーだな、と七海は冷蔵庫を開けました。しかし、そこは真っ暗でした。電源が入っていないようです。振り返っても、相変わらず皆、自分勝手に行動しています。道も聞けそうにありませんし、とっとと出よう、と思ったその時でした。
「うわっ?!」
 物凄い勢いで、中に吸い込まれたのです。掃除機で吸い取られるかのように。七海は冷蔵庫の中へ倒れこみました。途端に風は止み。
 バタンッ!
 冷蔵庫の扉が閉まってしまったのです。慌てて外に出ようと押しても、びくともしません。昔、かくれんぼで廃棄されていた冷蔵庫に隠れた子供が、ドアを開けられずに死んでしまったニュースを思い出し、嫌な汗が出てきました。
「…あれ?」
 しかし、目が慣れると、違和感がありました。奥行きがとてもあるのです。それは冷蔵庫というより、通路と言ったほうが正しいくらいの。「どこかに出るのかな?」と七海は歩き始めました。家の冷蔵庫とは比べ物にならないほどですが、少しひんやりとしていて、もっと広くて暗くなければ居心地が良いだろう、というような場所でした。前方にドアが見えます。少し力を入れて押してみました。すると、それは簡単に開いたのです。
「うぉっ?!」
 思わず声を上げて、1,2歩たたらを踏んで、見上げた先には。
「七海!」
「…って、本郷?!」
 普通の(この場合の普通、というのは普段自分たちが生活している世界での普通、という意味です)ダイニングキッチンで、流しに向かっている本郷がいました。冷蔵庫から出てきた自分を見て、少しは驚いたようですが、何をやっているんだ程度の驚きです。ここはどこかと尋ねると、「どこの家かは知らないが、表で人間とウサギがお茶を飲んでる」という答え。
「…は?」
 ある意味、自分以上に理解不能な状況に、悩んでしまいました。てっきり自分たちの世界――ここが別世界と定義した場合ですが――に戻ったと思っていたのですが、どうも違うようです。いきなり冷蔵庫から出てきても、本郷の驚きがあの程度だったのも道理かもしれません。もっとも、彼の驚く姿自体が珍しく、滅多に見られないだけなのかもしれませんが。
「どうも、記憶が曖昧になっている。気が付けば森の中にいた、という状態だ」
「…オレもそうなんだけど。もしかして、紫乃ちゃんも来てるのかなぁ?」
 皿洗いを始めた本郷をよそに、七海は部屋の中を詮索し始めました。ふと、戸棚のところに、『当たり』と書かれたクジを発見しました。それはただの紙切れなのに、時計が付いていて、しかも逆周りで秒針が進んでいます。その隣に『有効期限』と書かれていました。
「これって、あと1時間でクジの有効期限が切れるってことなのかな?」
 12時のところに赤く線が引かれ、今は1時を差していたのです。放っておいていいのかと、この持ち主であろう人物――ウサギか帽子屋か――に尋ねようと外に出ました。
「あれ?」
 そこは、本郷が言っていたテーブルなどはなく、ウサギも帽子屋もおらず、代わりにおびただしい数の動くもの、がいました。動くもの、というのはもちろん動物もいたのですが。
「おい、本郷、あれ、トランプだよな!トランプに顔と手足が付いて、動いてるぞ!」
 律儀に皿洗いを続けていた本郷の手を引っ張って、まるで始めて動物園へ来た子供のように七海は走り出そうとしました。しかし、ぐいっと引き戻されます。
「何だよ――」
 振り返った七海の視線の先に、この世界では少し目立つ人物が走ってくるのが見えました。
「紫乃ちゃん!」
「良かった、会えて!」
「どうしたんだ?」
 訊いても無駄だと思いながらの本郷の問いに、紫乃は肩をすくめただけでした。
「分からないわ――。説明しろといわれても、出来ないの。例え、団先生や連城先生でもさじを投げるくらいに、不思議なことばかりだったから」
「オレらも、そんな感じだけどね」
 それにしてもこの騒ぎは何事でしょう。少し経つと、ラッパの音が鳴り響きました。誰かが「裁判が始まるぞぉっ!」と叫びました。皆は一斉に、大きな建物を目指しています。どうやら、それが裁判所のようでした。3人も群集に押され、入り口にやってきました。
「くじを拝見します!」
 入り口でトランプの兵士(と紫乃が言っていたのでそう呼ぶことにします)が声を張り上げていました。
「くじって…これ?」
 七海が持ったままのくじを差し出しました。兵士はそれを受け取り、中へ、と指を差しました。



<裁判所へ>



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