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 持てるだけ食器を持って家の中へ入ると、そこはそこで不思議な空間でした。正確に言うと、見慣れた風景です。普通のダイニングキッチン。しかし、お茶会のメンバーやこの家の外見からすると、明らかにおかしいのです。
 流しに食器を置いて、ぐるりと見渡すと、冷蔵庫が眼に入りました。電柱や電線は見当たらなかったので、はてこの冷蔵庫は動いているのだろうか、と思いながらも、蛇口をひねりました。冷たい水が出てきます。洗剤やスポンジもありました。ここがおかしいのか、それとも外の連中がおかしいのか。本郷は考えつつも、食器を洗うことに専念しました。
しばらくすると、がたがたっと音がしました。見れば冷蔵庫が揺れています。皿を洗う手を止めて見守っていると、内側からドアが開きました。
「七海!」
「…って、本郷?!」
 冷蔵庫から出てきたのは七海でした。当然ですが、人が出てくるものではありません。
「何をやっているんだ」
「いや、冷蔵庫を開けたら吸い込まれちゃって」
「吸い込まれた…?」
「掃除機みたいに」
「…そうか」
「…疑ってるだろ」
「いや」
 本郷らしからぬ答えに、七海は疑問に思ったようでした。確かに、冷蔵庫がどこでもドアのようなものになるとは聞いたこともありません。しかし、さっきから聞いたことのない出来事ばかりだったので、大した問題でもないと本郷は思ったのです。
「んで?何でお前はこんなトコにいて何してるの?つか、ここドコ?」
「見ての通り、皿を洗っている。どこの家かは知らないが、表で人間とウサギがお茶を飲んでる」
「…は?」
 簡潔すぎる答えに、七海はきょとんとして、それから腕を組んで、片手を額にやって、少し唸って、何だソレ、と訊いてきました。
「事実だ。俺の目と記憶がどうかなっていない限りは」
「…何で皿洗いなんてやってんだよ」
 当然といえば当然の問いに、本郷は簡単に説明しました。おおよそ説明と呼べるものでもありませんでしたが、七海もおかしな状況だったらしく、あぁそう、と答えただけでした。
「…んで、どうやってここに着たんだ?」
「どうも、記憶が曖昧になっている。気が付けば森の中にいた、という状態だ」
「…オレもそうなんだけど。もしかして、紫乃ちゃんも来てるのかなぁ?」
 皿洗いを再開した本郷をよそに、七海は部屋の中を詮索し始めました。ふと、戸棚のところに、『当たり』と書かれたクジを発見しました。それはただの紙切れなのに、時計が付いていて、しかも逆周りで秒針が進んでいます。その隣に『有効期限』と書かれていました。
「これって、あと1時間でクジの有効期限が切れるってことなのかな?」
 12時のところに赤く線が引かれ、今は1時を差していたのです。放っておいていいのかと、この持ち主であろう人物――ウサギか帽子屋か――に尋ねようと外に出ました。
「あれ?」
 そこは、本郷が言っていたテーブルなどはなく、ウサギも帽子屋もおらず、代わりにおびただしい数の動くもの、がいました。動くもの、というのはもちろん動物もいたのですが。
「おい、本郷、あれ、トランプだよな!トランプに顔と手足が付いて、動いてるぞ!」
 律儀に皿洗いを続けていた本郷の手を引っ張って、まるで始めて動物園へ来た子供のように七海は走り出そうとしました。しかし、ぐいっと引き戻されます。
「何だよ――」
 振り返った七海の視線の先に、この世界では少し目立つ人物が走ってくるのが見えました。
「紫乃ちゃん!」
「良かった、会えて!」
「どうしたんだ?」
 訊いても無駄だと思いながらの本郷の問いに、紫乃は肩をすくめただけでした。
「分からないわ――。説明しろといわれても、出来ないの。例え、団先生や連城先生でもさじを投げるくらいに、不思議なことばかりだったから。ウサギや猫がしゃべったり」
「オレらも、そんな感じだけどね」
 それにしてもこの騒ぎは何事でしょう。少し経つと、ラッパの音が鳴り響きました。誰かが「裁判が始まるぞぉっ!」と叫びました。皆は一斉に、大きな建物を目指しています。どうやら、それが裁判所のようでした。3人も群集に押され、入り口にやってきました。
「くじを拝見します!」
 入り口でトランプの兵士(と紫乃が言っていたのでそう呼ぶことにします)が声を張り上げていました。
「くじって…これ?」
 七海が持ったままのくじを差し出しました。兵士はそれを受け取り、中へ、と指を差しました。



<裁判所へ>



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