夢を見た。
胸から広がる熱いもの。自分の身体を抱える腕。それが、心地よかった。
冷たい金属。それを握る手。それを掛ける手。見慣れた手。心に落ちる影。
「……………」
目が覚める。見慣れた当直室の天井。冷や汗をかいているのか。額を拭い、思わず胸に手をやる。激しい鼓動。自分の体温以上のものは感じない。そのまま手に目をやる。冷たい感触は無い。銀色の光も無い。
殺される夢を見た。そして、それを自分が見ている夢を。夢だから出来ること。犯人は――。
「アホか、オレ」
呟く声は震えている。何で、本郷が人を、よりによってオレを殺すんだ。動機が――。
夢の出来事に対して、バカ正直に考え込む。運の悪いことに、ひとつ、心に引っかかるものがあった。オレだから、殺した。否、DDCの七海光太郎だから殺した。
「バカか、あいつ」
その男を殺したって、オレが救われるわけじゃねぇんだ。だって、殺人犯を野放しにしては置けないだろうが。お前に手錠をかけるのは、オレじゃねぇか。目の前にいるんだし。あれ、よく分からないな。言いたいのは、お前はバカだということだ。オレを救う気で、それ以上オレを落ち込ませるなんてさ。まぁ、紫乃ちゃんに手錠をかけるなんて事に比べれば100倍は心は軽いが。
そんな悪態を今ついたところで、何になる。
「マヌケだよな、オレ達」
こんな形の無理心中もあるのか。いつの間にか独り歩きを始めた彼らを抹殺する方法。お前なら、もっといい方法が思いつきそうなんだけど。あぁ、お前が思いついたってことは、それが最良なんだろうな。最良であり、最悪か。やってらんねぇ。
あの時、手錠を持った自分に見せた顔は、穏やかだった。その腕に抱かれているオレもだ。
「紫乃ちゃんが可哀相じゃねぇかよ」
1人残された彼女が。いや、きっとアイツのことだから、抜かりは無い。全て独りで背負い込む癖があるアイツは――。
跳ね起きる。
この建物のどこかに、血まみれの片桐紫乃が倒れているんじゃないか。血まみれの七海光太郎が倒れてるんじゃないか。血まみれの本郷巽が、立ち尽くしているんじゃないか。
ドンッ
壁に拳を叩きつける。何を考えているんだ、オレは。夢だろ。今は、起きている。目が覚めている。現実、のはずだ。オレはここにいるじゃないか。第一、何故、本郷を犯人に――。
オレが、七海光太郎を殺したいのか?
それを、アイツは気づいているのか?
全てを独りで背負い込む癖がある――。
「冗談じゃねぇ」
オレはオレを殺したくはない。万一そうであったとしても、そこまでお前に甘える気はない。
「そこまで、お前にカッコつけさせる気は毛頭ない」
ただの夢に振り回され、起きてからも動揺しているなんて、探偵にあるまじき事だ。
「…コーヒーでも淹れるか」
とびっきり甘いのを。こういうときは、糖分が欲しくなる。確か、本郷は泊まりだ。アイツには、塩入りのコーヒーでも持っていくか。
ベッドから降りる。少し、ふらついた。
DDCの七海光太郎ともあろう者が。
そうやって自分自身を励ます言葉に、追い詰められている気がするのは何故だろう。
06/01/03
今年最初の更新がこれですかと(以下略)。
テーマは自殺幇助(のつもりでした)。
DDC、という言葉自体が既に一人歩きをしている気がするのです。「DDCの探偵だから」みたいな。それは七海さんには少し酷かもしれないと。だって、団先生が倒れた時の狼狽ぷりを見たら。そのうえ、「七海光太郎」すらも一人歩きを始めたら大変ですよ。実際、歩き始めてはいそう。
もう1つ、以前、本郷先生は、何かのために笑って死ねる人だと書きました。もしかしたら誰かのために、最後の選択として、罪を犯すことも出来るかもしれない。そんな考えが漠然と浮かんだので。多分それは、七海さんや紫乃ちゃんのためかもしれない。…さすがに格好つけすぎかなぁ