CAN IT PLAY A DETECTIVE ?
着信音が鳴る。表示された電話番号は10桁。登録はしていなくても、知り合いで家の電話から彼女の携帯にかけてくるのは、一人だけ。
「もしもし?」
「あ、もしもし、メグ?」
確信していた相手は、予想に反して切羽詰った声を出す。
「あのさ、今日、時間ある?」
「あるけど――どうしたの?」
「ホント?!お願いがあるんだけど――」
「なぁに?」
「夏休みの宿題、手伝ってくれない?」
「いやー、ホント、助かったよ。リュウはどっか出かけちゃってさ」
ハンバーガーを詰めこみながら、テーブルにはノートを広げたまま、キュウは笑う。
「はい、手を止めない。まったく、この時期になって一つも手をつけてないなんて」
「えー、でも夏休みの宿題って、皆このくらいから始めない?」
8月20日。始業式まで、2週間もない。キンタだったら、そうかもしれないけど。
「自分に出た量を考えてみたら?」
キュウに出された課題は多い。本人いわく、1学期の成績が相当悪く、夏休みの1ヶ月間、学校でみっちり補習されるところを課題で勘弁してもらったとのこと。それでこの状況は、さすがに彼もまずいと思ったらしい。お昼ご飯とおやつはキュウのおごりね、というメグの条件にも即答したぐらいに。図書館で待ち合わせをして、午前中に1科目を終わらせ、近くのハンバーガーショップで昼食を取りつつも、キュウは数式に頭を悩ませていた。
「探偵になるんだから、こんなの必要ないと思うんだけどなぁ」
「あら、でも確率はこの前の幻想館でも使ったじゃない」
「そーだけど…じゃぁ、国語や社会は必要あると思う?」
「そうねぇ。国語は、ダイイングメッセージとか、暗号とか、ヒントになるかもしれないわね。社会も、世の中の仕組みとか必要だし――DDSでも学んでいるでしょ?理科は、当然、基礎は必修よね。カズマほどになる必要はなくても」
そうか、とガクッと肩を落としたキュウは、そのまま窓の外に目をやる。
「あ、ツバメ」
2階の窓際の席。目線の高さに電線が張られている。そして、窓がなければ手が届きそうな場所に、1羽のツバメがとまっていた。
「へぇ、ツバメでも毛繕いするんだ」
一心不乱にくちばしで毛を整えているツバメを見て、面白そうに呟く。
「ホント。猫みたいね」
「あ、今度は足で頭掻いてる。あれ、よく犬がやるよねぇ」
「キュウ、手が止まってるわよ」
ピシャリと水をさしたメグに、はーい、と答えつつも集中力がきれたのか、キュウの視線はノートよりツバメに向けられる。
「あれ?」
「どうしたの?」
つられて目線をずらす。ツバメは相変わらずそこにいたが、全く動かない。しばらく見ていると、だんだん体が傾いていき、ある時点でパッと身を起こす。そしてまた、傾いて――。
「これって――」
「電車で寝ている人、だよね」
思わず顔を見合わせ笑う。身近な鳥のはずなのに、今までその行動に気を留めたことはなかった。
「電線から落ちないだけ、人間より凄いかもね」
これを夏休みの自由研究にしようかなぁ、とキュウが呟く。
「メグって、もし動物になれるなら何になりたい?」
「急に何の話?」
「いや、ふと思って。もし鳥だったら宿題に追われることもないのになーとか」
大空を飛んでみたいという考えが出てこないのが、キュウらしい。むしろ今は宿題をどうするかで頭がいっぱいなんだろうけど。
「でも、鳥だったら探偵にはなれないわよ?」
「あ、そっか。いくらなんでもツバメは推理なんてできないよね」
やっぱり人間が一番かな。人にしか持ち得ない推理を大好物とする彼は、しばらくノートを見た後、真剣な眼差しで口を開く。
「ねぇ、メグ。この問題を解くヒントを3つ、くれない?」
弾かれたように、ツバメは飛び立っていった。
040908
キュウとメグ。日常の話って実は難しいかもしれないと思いました(笑)。
ツバメの話は実話です。ちょうど部屋から見える位置によく鳥が止まっているんですよ。で、30分ぐらいボーっと見ていたら(時間を無駄に使うのにかけては天才かもしれません、私)、まさにあの動作を一連やっておりました。ついでにいうと、私が見ていたツバメは一回落ちかけました、電線から。