SMOKE IN THE DARK
1ヶ月ぶりだろうか。
戻っては来ていた。部屋にはいない。広い屋内、探すのは非常に面倒だ。急な用事なら携帯にかければいい。だが、そういうものではなかった。それに、相手がどこにいるのかは分かっている。
多くの建物がそうであるように、屋上へ通じる階段は薄暗かった。人が来ないのなら、常時明かりをつけておくのも省エネに反するのだろう。
軋むドアを開けて、ぐるりと見渡す。薄暗くなった空に溶け込みそうな黒いコート。
「煙草」
一言の問いに、無言の答え。コートのポケットから取り出したのはビニルのフィルムも破られていない、新しい箱。投げてよこしたのを、そのまま返す。
「あったら貰おうと思っただけで、わざわざ買ってきてもらうつもりはねぇよ」
「嘘をつけ」
「そうかな」
その言葉に反応することなく、彼は小さく音を立ててビニルを破り、1本取り出す。再びポケットに手を入れ、取り出したのはマッチ。今度は手渡しで煙草を受け取り、それを眺める。今時、マッチを持ち歩いている人間も珍しい。ヘビースモーカどころか、こういう時でもなければ吸わない人間だ。マッチの使用頻度もそれに比例する。一体、どこから手に入れているのだろう。
1回の摩擦でオレンジ色の炎が燈る。それを守るように手を丸めて、火をつける。
この瞬間が、一番好きだ。
唯一、格好良いと思う姿。他の全てにおいて、自分が勝っているとしても、これに関しては一歩を譲ろう。伏せた瞳と、少し傾げた首と、揺れる髪の毛。
口に銜えたままの煙草を近づける。照らし出された顔を一瞥する。あぁ、また傷が増えたんだな。こんな至近距離で顔を見れるのは、そうはない。せっかくなんだから、オレの顔も見ておけよ。心の中の提案は、相手には届かない。
ほとんど同時に、白い煙を吐き出す。星が1つだけ出ていた。
「オマエって、何でそう煙草を無駄にしたがるのかね」
1回吸っただけで、後は紫煙を燻らせている。カッコつけてんじゃねぇよ。いつだかそう言った。
吸えない訳ではない。年功序列、吸ったのは一番早い。誕生日を迎えてすぐに、その姿を見かけた。別に吸いたいわけではない。吸えないと困ることもある。味を覚えておかないと困ることもある。その言葉通り、1ヶ月ぐらいでパタリとやめた。
お互い、何日も何週間も戻らない時期が続いて、タフさが売りとはいえ、さすがに参ってしまった時に。
いつしか出来た、悪しき習慣だ。
法に触れるわけではないのだから、堂々と吸えばいいのに。喫煙室でなら、と忘れないのが彼女らしい。そういわれたこともあるが、この時間帯のこの屋上じゃなければ、幻燈を見ることは出来ない。黒い背景に流れる白煙を見ることは出来ない。
煙草に火をつける姿を見る。胸いっぱいに、有毒なガスを取り込む。
そして、生きている、と実感する。
05/10/22
「まだまだあぶない刑事」公開記念(笑)。
こっちの2人には、煙草というイメージはあまりないですが。黙って吸ってるだけなら、絵になると思うのです。