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WHY AM I SMILING?


 静かな夜だった。
 誰が傷つこうとも、誰が命を落とそうとも、時間は変わらず流れる。

「――こんな趣味があるなんて、意外だな」
 明りを落とした部屋。窓際の机。整理整頓されたその上に、シンプルなアロマキャンドルが柔らかい灯を揺らす。ポツリと呟いた七海に、部屋の主は、貰い物だ、とだけ返す。

 かれこれ2時間。本郷の家の扉を叩き、家主の意向を無視して入り込み、ベッドを占領して2時間も経つ。その間、会話はなかった。部屋に入った時にはすでに、微かに香りが漂っていた。本郷はベッドから少し離れたソファに座り、テーブルランプの明かりで何かを書いている。
 窓には無地のカーテンがかかっていた。キャンドルの灯で作られた影が不思議な動きを見せる。それはまるで、自分の心が映し出されているようで、七海は布団を頭からかぶり直す。

「すっげぇ、後味の悪い事件だったんだ」
 布団の中で、息を吐くのと同じ感覚で、言葉を紡ぐ。聞こえているかは分からない。ペンの音が止まった。しかし、それだけだ。反応はない。それでいい。
 一人にして欲しかった。でも、独りにはなりたくなかった。
「俺がもっと気をつけていれば、死なずにすんだかもしれないのに」
 話をしたくはなかった。でも、話を聞いて欲しかった。

 反省をしなければいけない。でも、後悔をしてはいけない。探偵に『もしも』という言葉は禁物だ。それでも、使わずにいられない時もある。

 優秀、という言葉は時に人を孤独にさせる。どんなに泣きたくても笑顔で返し、どんなに辛くても軽口を叩く。鏡は真実を映さない。何故そこに映った自分は笑っているのだろう。

 テーブルランプを消す音が聞こえた。本郷が動く気配はなかった。せきを切ったように涙が流れてきた。見えるはずはない。それでも見透かされているようで、本郷に背を向けるように、七海は布団の中で丸まる。

 探偵、という言葉は時に催眠の効果を発揮する。全ての感情を置き去りにし、真実だけを求める。それが優秀である条件の1つなのだろうか。確かに、本郷の泣く姿を見たことはない。果たして、彼が泣く事はあるのだろうか。弱い姿を曝せる相手がいるのだろうか。

 気配が動いた。見えるはずはないのに、灯が消えたのが分かる。愛想のない言葉がかかる。たった一言。途端に、自分の意識も暗闇に吸い込まれていく錯覚を覚える。まるで、その言葉が睡眠薬であったかのように。

 誰が傷つこうとも、誰が命を落とそうとも、感情に流されてはいけない。
 それが、どんなに愛しい人でも。




050105
2005年!新年第1号!のはずが、ずいぶん暗い話となりました(苦笑)
何だかとっても弱い七海さん。本編が本編だから、その話かと思うかもしれませんが、時期設定としましては、連城さんが亡くなって団先生が怪我をして、それから1年後ぐらいに、それを髣髴とさせる事件を担当した七海さん、という感じです(長)。124話を読む限り、こういう状況があってもいいじゃないかと



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