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THE REASON WHY IT IS NECESSARY


「何これ?」
「何って、見りゃ分かるだろ?」
 まだ『夏』とはいえないものの、一段と暑さが増したある日の放課後、カズマとリュウは半ば『拉致』状態で、キンタの家に連れてこられた。
「扇風機?」
 リュウが疑問系でその物体の名前を呼んだのは、それが扇風機の形をしていないからだった。早い話、分解された後の、各パーツである。
「一昨日、いきなり壊れて、直せないかと思ってみたんだけど、どうにもいかなくなってよ。お前らなら、こういうの得意だろ?」
「…新しいの買ったほうがいいよ。クーラーつけるとかさ」
「んな金がありゃ、呼ばねぇよ」
「でもこれ、結構年代物のような気がするけど」
 リュウが言うとおり、その扇風機はキンタが幼い頃からずっとあったものだった。見てくれもくたびれているが、何故かそれが気に入っていて、1人暮らしを始める際も、我侭を言って持ってきたぐらいだ。もっとも、こんな古いものを手放したくない、というのは家族にいなかったが。
「頼む!メシおごるから!」
 両手を合わされ、リュウとカズマは顔を見合わせる。
「僕は今日は用事ないし」
「僕もいいよ。でも、キンタも手伝ってよ?」


「これさぁ、壊れたのって、ホコリが原因じゃない?ほら、ここ、凄いこびりついてる」
「ここって…何処の部分なんだ?」
「もー。分からないんなら、分解なんか、しないでよ。なくなってる部品があっても知らないからね?」
 小一時間ほど後。広げた新聞紙やタオルの上に、細かい部品を並べ、大まかなパーツごとに分ける作業が一通り終わった。そこから、故障の原因を探りつつ、各部品を調べていく。カズマが手にしたのは、モータとその周辺のギアだった。海堂に持ってこさせた道具箱の中から、エアスプレーとブラシを取り出す。
「こっちは結構、錆びてるね」
「あぁ、じゃぁ、これ。手袋はこっちにあるよ」
 リュウには錆び落しを渡し、首をひねっているキンタには、羽根とフレームでも磨いていて、と指示を出す。
「了解。細かいものは、任せた」
「それにしても、ここ、風が入らないね」
 リュウが開け放された窓の外を見る。木々が揺れているのだから、多少なりとも風は吹いているはずだが。
「風の向きにもよるけどな、そこまで風通しはよくねぇ。だから、扇風機が必要なんだよ」
「だったらクーラーでいいじゃん」
「金持ちは黙ってろ」
 頭をポカリと殴られ、人に物事頼む割に扱いがひどいんじゃない?とカズマは頬を膨らませた。


「よし、完成かな」
 そうカズマが言ったのは、すでに夜の7時を回っていた。見かけは相変わらず古いが、全ての部品の汚れを落し磨き上げたので、ちょっとした骨董品のようにも思えるものになった。
「グリスも塗っておいたから、音も静かになったはずだよ」
 ではでは、とコンセントを差込み、スイッチを入れる。カズマの言うとおり、聞こえるのは僅かなモータ音と羽根が空気を送る音だけだった。
「お!すげぇ!ありがとよ!さすがだな!」
 バシッと2人の背中を叩いて、キンタは礼を言う。
「痛い!それよりも、ご飯、おごってくれるんだよね?僕もうお腹ペコペコなんだけど」
「おう、ちょっと待ってろ」
 キンタは台所へ消え、すぐにビニール袋を持って戻ってきた。
「何それ?」
「現在における俺の家の食料。好きなだけ食べていいぜ?」
 ちゃぶ台の上に次々と並べられていくのは、いろんな種類のカップ麺だった。
「…まぁ、キンタのことだから、期待はしてなかったけどね」
 文句を言いながらも、カズマはどことなく嬉しそうに手を伸ばす。
「僕ん家、こういうの食べてると、怒られるから」
「けっ、金持ちが」
 一言吐き捨てて、きょとんとしているリュウに1つ、差し出す。
「俺の中では、これが一番だ」
「あぁ…ありがと」
「…まさかリュウ君、カップ麺食べたことない、なんて言わないよね?」
「え?いや、一応あるけど」
「…一応かよ」
 学生の常備食だろう、とキンタは自分の分にお湯を注ぐ。やかんを置いて、復活した扇風機の位置を調節し始めた。すぐに軽やかな音が聞こえてくる。
「…これって」
 そろって窓を見上げる。紅い金魚が描かれた透明な風鈴。
「だから、扇風機じゃなきゃダメなんだ」
「そういうこと」
 リュウはにっこり笑って、やかんを手に取る。カズマは珍しそうに風鈴を眺めたままだ。
「キンタにしちゃ、風流だね。どうしたの、これ」
「ガキの頃、縁日で買った」
『縁日?』
 2人のハーモニーに、まさかお前ら縁日行った事ないの?とキンタは目を丸くする。
「聞いたことはあるけど…」
 軽く首をかしげるリュウに、カズマも同意する。
「かーっ!日本男児が聞いて呆れらぁ!」
「じゃぁ、次何かあったら、縁日に連れて行ってよ」
 カズマの提案に、まだ時期じゃねぇ、とキンタは立ち上がり、ウーロン茶でいいな、と再び台所へ消えた。
「…まだ時期じゃないって、次はそんなにすぐにあるものなのかな?」
 きっと宿題だろうけど。カズマの呟きに、リュウは、そうかもね、と返し、風鈴に目を向ける。
「キンタって、結構物持ちいいんだね」
 チリンチリンという心地よい音に混じって、キュルル、という音が響き、2人は自分のお腹に視線を落し、すぐに顔を見合わせて、笑った。
「ん?何だ?どうした?」
 グラスとペットボトルを抱えたキンタが戻ってくる。別に、とカズマは割り箸を割った。




050612
個人的に好きなトリオ。キンタは、風流とかは分かってはいないものの、思い出を大切にするというか、「よくわかんねーけど、これじゃなきゃダメ」というものが沢山ありそう。きっと風鈴は、群馬の縁日ですみれと右近と一緒に買ったんだろうなぁ(希望)。でも右近は別のものに改造していそうな気がする。すみれは持ってるか壊したか(笑)



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