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RAIN LIGHT


 厚い雲に覆われた空。街灯も傘に遮られ、唯一の光源は路面に反射する光だけだ。降り続く雨で所々に出来た水溜りに、丸く光りが浮かび、幾何学的な模様を作る。天気予報ではこれからが本降りといっていた。


 大通りの一角に佇む人影。黒い傘で顔は見えないが。
「…何故貴様がここにいる」
「よく俺だって分かったな」
 傘をひょいと持ち上げて、まるで自分が来るのを待ち伏せていたように、七海は笑った。
「自分の風体を考えた事があるのか」
 夜には一層目立つ白。
「そろそろ、交通課から表彰されてもいいんじゃないかな」
「防犯からは文句がきそうだがな」
「それに加えて4課からもクレームがきそうな奴に言われたかないね」
 返事はせずに、角を曲がる。お前が掛け合いやるなんてめずらしいな。声が追う。
 身長が違えば、当然歩幅も違う。少し大股で歩く自分に、七海は多少早足で後ろを歩く。
「なんで付いて来るんだ」
「俺も行き先が一緒なんだよ」

 雨は幾分強まり、路上の円が歪む。


「そう怖い顔をするなって。俺も明日から出張だから、当日は来れねぇんだ」
 『俺も』――。連絡ボードにはまだ何も書いていない。誰かに話したわけでもない。ふと疑問に思ったが、すぐにその答えは出た。七海はよく、片桐の周りをうろついている。ならば、自分が明日からしばらく日本を離れることを知っていても不思議ではない。長期出張の手続きを整えるのはもっぱら彼女の仕事でもある。仕事内容は秘匿事項だが、ある程度の行き先と期間は要周知事項だ。
「本当は帰ってきてから土産片手に行ってもいいかなと思ったんだけど、それはこっちじゃなくて向こうだし」
 指を適当な方向に向けて、でもサボテンは喜ばないかなぁ、と首をかしげる。
 DDCから目的地までは、このルートが一番近い。同じ目的を持つ人物と会うことは不思議ではない。単にコーヒーを飲みに行く。しかし、自分にとってその行動は何も意味を持たない。おそらく七海にとっても。そう言う意味では、この偶然は趣味の悪い必然だ。
「そもそも、俺らが花束持って――なんて、天下の団守彦だって想像つかないだろうよ」
 視線の意味を捉えたのだろうか。おどけるように七海は柄をまわす。
「嘘をつけ」

 慣性の法則などありえないように、傘が止まる。まるで命が事切れたかのように。


 同期、とよく言われる。それは事実だが、ある意味正しくはない。七海は、DDCに入る前から彼と行動を共にしていた。詳しい話を聞いたことはないが、何かの事件で知り合い親しくなった、と言っていた事は記憶にある。DDCに入ってからも、そしてその後も、まるで兄のように慕っていた。自分よりは、深い付き合いだったはずだ。

 例え、普段どんなにクールに振舞い、時には道化者を演じようとも。

「――勝手にしろ」
 時間的に数秒。再び歩き出す。
「打ち合わせって事にすれば経費で落ちるかもな」
 ひねくれた人間にはそれなりの答え方があるらしい。


 大通りを2本やり過ごし、さらに角を曲がる。道幅も、並ぶ建物も、規模としては他と大して変わらない。なのに、寂れた感じがするのは昔の残像が自分にもあるからだろうか。夜明けまで営業している喫茶店の前で立ち止まる。
「8年、か」
 七海がつぶやく。おそらく昔の内装を未だに鮮明に覚えているであろう男は、あきらめのような言葉を吐き出す。
「すっかり変わるには、十分な年月だな」

 8年前まで、ここにあった探偵事務所を知る人間は、いるのだろうか。


 傘を叩く音が激しくなる。光は、雫となり弾け飛ぶ。




041011
完全一人称に挑戦したら本郷さんの本の字も出てこなくて、誰と七海さんの話か分からなくなった代物(ぉぃ)。彼っていうのは連城さんです。
七海さんは、最初に会ったDDC(まだ団探偵事務所だったかもしれませんが)の探偵は連城さんかな、と思って。すごい懐きそうじゃないですか?懐くというか遊ぶというか(笑)。たぶんお墓参りとかちゃんと行っているんじゃないかな〜と。真面目なところは真面目に



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