PICTURE IS PICTURE
シャッシャッという音だけが響く。白い紙に濃淡のついた線が増えていく。
これが屋外なら赤く色づく木々のスケッチとでもいえるのだが、生憎、七海がいるのは白い部屋で、目の前にあるのは机の上に乗った人の顔だ。
否、頭蓋骨に復元された人の顔。
「七海ちゃんはホント絵が上手だよねぇー」
ふいに、後ろから声がかかる。この部屋の主で、この顔の作成者。ドクター・ドクロ。
「美術の成績は良かったからね」
「は、てことは、それ以外は?」
「企業秘密」
この頭蓋骨は1週間ほど前に七海が発見したものだった――レプリカではなく本物を。事故か自殺か他殺かも分からず、身元が分かるものも何もない。そこで警察は復顔をドクター・ドクロに依頼してきたのだ。
ドクター・ドクロの復顔技術は科捜研でも一目置いている。CGを使わなければ彼らがドクター・ドクロに勝てるかと言われたらNoと言えるぐらいに。
しかし、ドクター・ドクロは絵を描かない。復元された顔を絵に起こすのは他の職員や、今回のように関係者で絵心がある者だ。
これだけ見事な復顔ができるのだから、絵心がないとも思えないが、訊いたところで「だって、絵は絵だもんねぇ」という答えしか返ってこない。
絵を描かないどころか、彼は写真も撮らない。絵も写真も持ってすらいない。彼が後生大事に抱えているエリザベスの生前――というのか――の顔も、だ。
彼にとっては絵も写真も、現実でない意味をなさないものなのかもしれない。そう思ったこともあるが、ではそのドクロは現実なのか、と言われればそれも微妙なところで、七海は確かめたことはない。
「でも、久しぶりに描いてみようかな」
何て言った?
聞き返す間もなく、ちょこんと七海の横に座りエリザベスを膝の上に、スケッチブックと鉛筆を手に取った姿は、何故か滑稽に見えた。白衣にスケッチブック。いや、やはりドクター・ドクロにスケッチブック、が合わないのだろう。
「七海ちゃんの絵はちゃんと特徴が捉えられてるから、分かりやすくていいよねぇ」
「そりゃ、これだけ変装をやっていれば、似せる重要ポイントは押さえられるからね」
「本郷君はどうなの?」
「本郷?」
「片桐君の絵は見たことあるけど、本郷君って絵を描くの?」
「あいつの絵なんか、棒人間以外見たことねぇよ」
「合理的だねぇ」
それを最後に、鉛筆の音だけが響く。七海もまた、作業に戻る。ところが、3分と経たないうちにドクター・ドクロの満足げな声が聞こえた。
「描けた」
「早すぎじゃない?」
覗き込んだ七海は、絶句する。どこかで見たことがある。あれは、そうだ、美術の教科書。
「…ドクロちゃんは、今度からドクター・ピカソとでも名乗った方がいいと思う」
10/08/29
七海さんは絵が上手く、本郷先生は凄く上手いか凄く下手かのどっちかで、ドクロちゃんの絵は斬新だと思います。上手下手とかそういうレベルじゃないと思う。