白は全てを反射する。
黒は全てを吸収する。
白は容易く他の色に染まる。
黒は他の色に染まることはない。
潜入捜査。その言葉から連想する人物。そう言われて、彼らと付き合いの浅い人物であれば、迷うことなく七海光太郎を思い浮かべる。変装は彼の十八番だから。
「これ?本郷の方が、いいだろ?」
資料を一瞥、七海は事も無げに、同僚の名を挙げた。
「やっぱり、そうかしら」
戻された書類を封筒に入れ、片桐は呟く。一応の打診だっただけで、異論はない。より適任な人物がいて都合が合うなら、それに越したことはない。
「オレ、ダメなんだよな、そういう相手。やれといわれればやるけどさ」
架空の会社の重役。取引先として、ターゲットに近づかなければいけない。
「あら。この前、ベンチャー企業の副社長になっていたじゃない」
「あれは、副社長って元の人物がいるから」
帽子をくるくると指で回し、通りすがりの人が聞けば意味不明な答えを返す。元の人物。つまり、入れ替わる相手。
そう、七海はどんな人物にも入れ替わることが出来る。なぜなら、彼は、彼の色を持っていないから。だから、相手の色に染まる事が出来る。言い換えれば、相手がいなければ染まる事ができない。100%架空の人物になれ、と言った場合、彼は七海光太郎という人物の域を出ることはない。
一方、本郷はというと、どんな人物にも合わせることが出来る。なぜなら、彼は、相手の色を持っているから。相手の色に合わせることが出来る。周囲の色に溶け込み、本郷という人物のまま、全く別の人間を相手に見せることが出来る。相手の望む雰囲気をまとうことが出来る。
それでも、本人は本人のまま。染まらないよう跳ね返す。染める事は不可能だと示す。
「じゃぁ、これは回しておくわね」
その言葉に、七海はムッとする。七海がその依頼を断り代わりに本郷を推した。『回す』にその意味を取ったのだろう。相手の技量を見極めているからこそなのに、まるで自分が劣っているかのように。
「大丈夫よ。向こうだって、七海君から回されたと言われれば、いい顔はしないだろうし」
「何それ」
潜入捜査において、非情とも取れるほど中立の立場を守れる2人は、何故かこういう些細なところで角が立つ。本質は違うが。
「似たもの同士、って事じゃないかしら」
あからさまに顔をゆがめた七海に、片桐は笑って、部屋を出て行った。
07/04/17