WHERE IS YOUR MASTER?
持ち主に似たのか、頑丈というのも時によっては困りもの。机の上に置いた腕時計は、相も変わらず時を刻む。
いくつもの傷と、それらに遮られながらも存在を主張する「DDC」の文字。疑う余地もなく、本郷のもの。
その主は、現在、行方不明である。
この時計が見つかったのは、偶然だった。ハイキングの途中、足を滑らせた登山者が崖下で見つけた。問題は、事件を追っている本郷は4日前に北海道へ向かったはずなのに、時計が見つかったのが九州だということだ。そして本人との連絡は絶たれたまま。
発見者は右足骨折。ということは、おそらく落ちても運が悪くない限り死ぬような場所ではないのだろう。奥深いところでもなく、1kmも歩けば人家があるという。本郷なら、間違いなくたどり着く。
優秀な探偵というのも裏目に出ている。たまたま現地の近くにいた同僚が捜査に当たっているが、今のところ目撃情報がほとんどない。せめてこの時計が止まっていれば――いや、余計にややこしくなっただけか。何の拍子に取れるようには出来ていない。つまり、本郷かもしくは誰かがわざわざ外したという事。
とりあえず生死でも分からないことには、次の仕事が手につかない。七海は改めて時計を手にした。風雨に晒された痕跡はない。つまり、一昨日の雨より後に、捨てられたのか置かれたのかしたのだ。前者ならあまり良い展望は持てそうにもないが、後者なら、何かしらメッセージがあってもおかしくない。
自席で考えるよりは行動あるのみ、まずは地図と時刻表でも見てみるか。
「まったく、何やってんだよ、お前の持ち主は」
コツン、と文字盤を突く。突然、針がピタリと止まった。
「げ」
そんなはずもないのだけれど、本郷の生命すらも止まってしまったような気がして、七海は慌てて科学班研究室へと走っていった。
07/09/15