TOPcreation > YOU LOOK IT



YOU LOOK IT


「困ったなぁ…」
 旧校舎の横。高い木の前で、カズマは腕を組んだ。枝の先に、目立つオレンジ色。脱いだ時に突風で飛ばされたカズマの帽子だった。一番下の枝にさえ辿りつけば、後は何とか登れそうだが、そこまでいく術を自分は持っていない。幹は真っ直ぐで太く、枝までは2メートル以上ありそうだった。
「あれ、鳴沢、どうした」
 両手に大荷物を抱えた七海が通りかかる。カズマの頭を見てすぐに見当をつけたらしく、木の上へ目線をやる。
「遠山はいないのか」
 当然のように出た名前に、カズマは少々憮然となる。確かに、こういう時に役に立つのはキンタだが、いつも自分と一緒にいると思われているのは不本意だ。
「他に登れるかお前を投げ飛ばせるとなると」
「投げ飛ばせるって」
 思わず突っ込んだところで、七海は「お」と声を上げる。見れば、旧校舎から本郷が出てきたところ。
「本郷、資料、コレな!で、ちょっと来てくれ」
 資料を受け取るつもりなのだろう、やって来た本郷に七海はくいっと顎を向ける。
「あれさ、あそこまで鳴沢を持ち上げてくれねぇ?」
 オレはこれがあるからね。両手の荷物を高々と上げて、アピールする。片足を引き摺っている人間に登れという気はないらしく、早い話は、木登りの手伝いをしろという事。本郷にこんなことを頼む人がいるとは。カズマは妙に感心してしまった。この2人はどういう関係なのか。
「このくらいは登れるよう、体力をつけたほうがいい」
「あのね、世の中の探偵が皆、お前みたいに手だけで崖を登れるほどの体力バカって訳じゃないの。正論だけどな」
「一番下までで大丈夫か」
「え、あ、はい」
 時間を惜しんでいるらしく、無駄な言い合いは避けたいようだ。ひょいっと身体が浮く。声を出そうとして慌てて飲み込む。まるでちょっとした荷物を持ち上げているかのようだ。
「届くか」
「あ、はい」
 本郷であれば手を伸ばすだけで枝には届く。抱きかかえられたカズマは両手を思いっきり伸ばして枝にしがみついた。
「じゃ、次、これな」
 手が開いた本郷に七海は見るからに重そうな荷物を押し付ける。これで先の言い訳は意味がなくなった。しかし、本郷には話を蒸し返す気はないらしい。
「これで全部か」
「あぁ。ま、こっからの作業が長いけどな。こっちが○○町ので…」
 足元の会話が気になりながらも、何とか上へと登り、帽子を掴む。ふと、木々の間から見えたもの。思わず叫ぶ。
「あ!虹!」
 ビルの隙間に辛うじて見える7色。まるで切り取られた絵のようだ。下から反応があった。
「まだ見えるのか」
「え?」
 カズマはもちろん、七海も、目を丸くして発言者を見やる。
「え?こっから虹?って、お前、何言ってんの?」
「あれからビルが随分と建ったから、もう見えないと思っていたが。条件が合えば、この辺りではかなりの確率で見える」
 淡々と言うだけの本郷だが、七海からしてみれば耳を疑わざるを得ない。
「え?お前、木登りなんかしてたの?オレが登ってると落とすかのように下ろして引き摺っていったお前が」
 ありそうな図ではあるが随分手荒だなぁと思いながらも、カズマも同感で、七海はともかく本郷が木に登っているという図は想像できなかった。一体、いつ頃の話だろうか。
「そんな穴場があるなら、教えろよ、ケチ」
「降りてこないと思ったからな」
「で、自分は優雅に虹観賞か!大体なぁ…」
 続くかと思われた言い合いを止めたのは七海自身。何を思ったか、幹を蹴り枝を掴む。軽い身のこなしで、瞬く間にカズマのいる所までやってきた。カズマが見ているものを確認する。
「おい、本郷!」
 下に向かって叫ぶ。本郷は荷物を抱え、早々と戻ろうとしているところだった。
「当時、ここに鳥の巣ってなかったか?」
「――あったが」
「やっぱり、そうか。なるほどね」
 謎が解けたような表情で、七海はもう一度、虹を見る。つられてカズマも。虹を切り取っているあのビルの上からなら、全形が見えるだろうか。
「先生が教えてくれなかったのは、このことか」
 先生?七海が先生と言うのであれば、団のことだろうか。しかし、問おうとする前に、七海はスルスルと下へ降りて行き、同僚の後を追いかけていった。何やらまた言い合う声――ほぼ七海のみのだが、聞こえてくる。
「って、あれ?」
 下を見ると、軽く眩暈がする高さ。どうやって降りればいいんだろう。すっかり忘れ去られてしまったカズマは、おそるおそる足を踏み出しては戻し、を繰り返し、結局、通りかかった遠矢に助けられるまでしがみついたままだった。




07/07/07
1期生お題「4.怒られた…。」とセットで。
カズマは高いところは平気でも、木の上とかは苦手そうだなーと。木登り苦手なのは神隠し村でありましたしね





TOPcreation > YOU LOOK IT