LET’S GO TO KYOTO ?
「本郷はいるかぁ!!」
そう怒鳴り込んできたヤツがいる。本郷がそれを聞いたのは、息を切らせて走ってきた同級生から。
「何やったの、お前」
「いや、今日は何もやってないよな。ずっと一緒にいたしな」
同室の友人たちは慣れた様子。今日はとはどういう意味だ、と普段なら問うところだが、現状では正しい。ここは京都で、本郷たちは修学旅行で今日着いたばかりなのだ。宿にまで怒鳴り込んでくるような因縁の相手はいない。
「とりあえず、行ってくる」
相手が名指ししたということは、知っているのかもしれない。今日の行動を振り返っても心当たりはなかったが、教師に任せておくのもどうかと、本郷は玄関へ向かう。
「あ――」
対応していた教師は本郷の姿を認めて、少し安心したような顔をした。褒められることではないが、もめ事に関しては彼らよりは慣れている。本郷は怒鳴り込んできた相手を見る。知らない顔だ。
「――俺が本郷だが」
名乗れば、どういうわけか相手は面食らった表情で指をさす。
「――本郷?アンタが?S高の?」
「あぁ」
相手は5人。制服を着ているが、地元ではなさそうだ。本郷たちと同じく、修学旅行でやってきたのだろう。仲間内でボソボソと話し、終いには顔に怒りが現れたが、それが本郷に向けられることはなく、また謝罪の言葉もなく、来た時と同じく唐突に去って行った。
「あぁ、そういえば騒がしかったね。そんなことがあったんだ」
翌日の班別自主行動。有名な寺ともなれば、修学旅行生が至る所で目につく。怒鳴り込んできたのはどんな制服だった、と聞かれたのをきっかけに、話題は昨日のこと。別館にいた女子にまでは、騒ぎは広がらなかったようだ。
「本郷君も災難だよねぇ、いつもいつも。自分の知らないところでねぇ」
「てーか、昨日のは、お前が男振る時に本郷の名前持ち出して騒ぎになるパターンそっくりだったぞ」
「えー?最近は使ってないよ。T大に入って大手の会社に入って年収1千万越えたらまた来なさいって言ってるもん」
「…オメー、本当、ヒデー女だよな…」
「それを言うなら、しょっちゅうカツアゲされかけては本郷君に助けてもらっている――」
「ぼ、僕は別に、そんな」
修学旅行の主旨はどこへやら、好き勝手に言い合う班員の言葉は半分聞き流し、本郷の眼は自然と人ごみへ。やはり自分の知らないところで名前を出されるのは気にいらない。昨日の生徒がいたら、名前を持ち出した人物像を聞こうと――。
「どうした?」
何気なしに耳がとらえたその言葉に振り返る。男子生徒の集団。その中に――。
――いたではないか。そういうことをやりそうな知り合いが。
「あ、おい本郷!」
「おい、七海!」
二つの集団から声が上がったのは同時だった。
「紫乃ちゃん、いつまで笑ってるのさ」
「ごめんなさい、だって」
謝りながらも笑うことをやめない。DDSの校舎、修学旅行ということで2週間ぶりに再会した片桐はさもおかしそうに続けた。
「だって、修学旅行先で走り回って二人一緒に迷子になったって」
「コイツが追いかけてくんのが悪いんだよ!」
「お前が逃げるのが悪いんだろう」
「お前に追いかけられたら警察だって逃げるわ!」
目が合ったとたん逃げ出した七海を追いかけるうちに住宅街へ迷い込み、二人で1時間ほど京都の街をうろうろしていた、というのが片桐にはツボだったらしい。
「でも、原因は七海君なんでしょ?」
「う…いやまぁ、それはその…」
七海としては、問題を起こしたら即刻帰すと教師に言われていたのを思い出し、とっさに本郷の名前を出しただけのこと。まさか当の本人も京都に来ているとは知らずに。
「お前はどうしてそう、あちらこちらで問題を起こすんだ」
「アレはあいつらが手ぇ出してきたんだよ!売られたケンカは買うの、オレは」
「でも、その高校生もすごいわよね。高校名だけで旅館まで割り出すなんて」
「余計なところで知識が回るんだよな。それに比べてコイツなんて、オレを追っかけるだけで、道なんて一つも覚えてねーし」
「お前に言われる筋合いはない」
「逃げてるほうは必死なんだよ。無理に決まってるだろ!」
本郷はため息をつく。なんとか再会できた班員は口裏を合わせてくれたので、特に問題にもならなかった。ジュースをおごらされはしたが。それにしても、運が悪い、というレベルなのだろうか、これは。
「紫乃ちゃんは北海道だったんだっけ?」
「そう。あ、これ、お土産」
「白い変人」
「嫌なら食べなくていいわ」
「嘘です嘘、いただきます」
「はい、本郷君も――」
浮かない顔をしている本郷に、片桐は笑いかける。
「大丈夫よ、厄年はまだ先だから」
「…それって、あまり慰めになってないよな」
自分が原因ということは棚に上げて、七海はお菓子を口に放り込む。
「厄年になったら、どうなってんだろうな、お前」
08/09/15
厄年(後厄?)には1ケ月の入院をしていた本郷先生。42歳だったら本当にどうなるんでしょうか。