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A GENUINE ARTICLE OR AN IMITATION


「はいよ」
「何それ?借りたものを返す態度?」
「わーったよ。ありがとうございました」
 ぶっきらぼうな台詞ながら、それを聞いて、すみれはにっこり笑った。
「大体、どういう生活をしたら給料日半月前で残金が0になるのよ」
「金さーん、僕も昔、貸したの、覚えてない?」
「あぁ?お前にいつ金なんか借りたんだよ?」
「小学校1年の時、駄菓子屋でホームランバー買うときに」
「…右近って、探偵より取り立て屋に向いているかもね」
 ありがとうございました、という機械の声に、キンタは妙に苛立ちを覚えた。何となく、この機械に金をとられている感じがする。
「さ、早く行かないと授業が――」
 2人より早く出口に向かっていたすみれの足は、すぐに止まった。直後、女性の悲鳴と。
「動くな!手を挙げろ!」
 覆面をした2人組。手には、拳銃を持っている。
「…えーと?」
 右近の間の抜けた声は、そのままキンタとすみれの心境をも表していた。こんなにも絵に描いたような銀行強盗と出くわすとは。


 行内にいた人間は一箇所に集められ、床に座らせられた。人数はそう多くない。覆面の1人が、男性行員を金庫室まで案内させていた。もう1人は、他の人間の見張りだ。キンタ達はその集団の一番前にいた。
「…警備はどーしたんだよ」
「休憩時間じゃないかしら?」
「ん〜、なんか、気になるね」
 右近の呟きに、2人がそちらを向く。
「警備がいない隙を狙って押し入って、それでもって警報ベルが鳴っていないのはおかしくない?」
 確か警報ベルはカウンタの下にあって、隙を見れば何とか押せるような代物じゃなかったっけ。キンタは、隣にいた女性行員に、警報ベルはどこにあるのか訪ねた。
「あ、それなら、中央と両端のカウンタに…」
「あの時、両端の窓口は閉まっていたから、誰もいなくて、押せないのはしょうがないわよね」
「中央にいたのは…あ、金庫に連れて行かれたおっさんだな」
「あの人、銀行強盗が押し入って、真っ先に両手を挙げたんだよね〜」
 のほほんとした口調ながらも、右近の目つきがいつもと違うことにキンタは気がついた。そうだ、なんだかんだ言ってもコイツは紛れもない天才で、DDSのAクラスの生徒だ。
「じゃぁ、押すヒマなんかなかったのね」
「強盗が怒鳴るか怒鳴らないか、といったぐらい早かったからね」
「…そりゃ、確かにおかしいよな。俺が個人的に気になるのは」
 今度は2人がキンタの方へ顔を向ける。
「ふつー、金庫まで着いて行くって言うのもあまり聞かないけどよ、連れて行くなら女性じゃねぇのか?男だったら、抵抗されて捕まるって場合もあるんだし」
 金庫の開け方を知っているのがその男性だけ、という可能性もあるが、強盗はそんなことを確認せずに促して行った。
「…ということは、あの男性行員が共犯?」
「考えられると思うけどな。だとしたら、警官がいつ見回っているかも分かるだろうし、今回は両端に人がいなかったけど、警報ベルが鳴らせないような細工もできるだろうし…自分がその席にいれば押さないだけでいいわけだし…」
 キンタとすみれの会話を聞いていた右近が、じゃあ、と切り出す。
「あの拳銃、ニセモノかもしれないね」
『ニセモノ?』
「おい!」
 きれいにはもった2人に、さすがの覆面男も気がついたのか、拳銃を向けてきた。
「しゃべっていいとは言っていないぞ!」
 目の前に突きつけられた銃は、一目見て本物かどうかは分からない。授業でも、銃についての詳しい知識はまだやっていない。資料室にモデルガンがあったが、この銃がオートマチックと呼ばれる類のもの、としか分からないのでは意味がない。偽物だったら取り上げて縛り上げるのは容易いことだ。さて、どうしようか――。視界の端で、右近が動くのが見えた。
「質問がありまーす。その銃、本物ですか?」
『なっ?!』
 キンタとすみれに、さらに覆面男が加わり、微妙な3声合唱が編成された。
「おい!右近!」
「ちょっと、何言ってるのよ!」
「ほ、本物に決まってるだろ!」
 男の声は、明らかにうろたえていた。今以外にない。キンタは両手を突いてばねにし、男の手首を蹴り上げた。拳銃が落ちる。今度は着地した足を勢いとして、体当たりを食らわす。男は、あっけなく倒れた。
「さっすが金さん!」
「さすがじゃねぇ!」
 ぽかり、と頭をなぐられ、脳細胞が死滅する〜と、いつものようにヘラッと相互を崩した右近は、すぐに真面目な表情で、縛り上げておかないとね、と立ち上がった。
「…ったく。これが本物で撃たれたらどうするつもりだったんだよ」
「ん〜。でも本物なら、入ってきた時に一発撃った方が、信憑性があると思うんだけどね〜。それをしなかったってのは、ニセモノの確立が高いかな〜って。それに共犯が銀行員なら何も本物を持ってくる必要はないじゃん」
「でも、単に持ってるだけと実際に使用した場合って、罪の度合いが違うんじゃないかしら?」
「あぁ、そうかもね。さすが、すみれちゃん」
「…そうだっけか?」
 脱力しながらも行員にロープはあるかと尋ねようとしたとき。
「あ!お前ら!」
 もう1人の強盗がパンパンに膨らんだ鞄を持って帰ってきた。男性行員はいなかった。
「へっ!お前が持ってる銃がにせもんだって事は分かってるんだ!おとなしくお縄頂戴しろ!」
「ちょっと、キンタ…」
「何を!」
 激高した男は銃口を真っ直ぐキンタに向けて、引き金を引いた。カチリ、という音が空しく響いた。
「…あれ?」
 呆けた声を出したのは強盗犯。すぐさまキンタはカウンタを越えて、慌てて狙いを付け直そうとした男よりも早く、鳩尾に拳を叩き込んだ。
 刹那。爆竹に似たような音が響き、蛍光灯が割れた。
「…え?」
 男は気絶していた。ただし、銃口からは白い煙が僅かに立ち上っている。
「…ほ…本物じゃねぇか、おい!右近!」
「だーかーらー、かも、と言ったんだよ〜僕は」
「…ったく…。すみれ!そっちの方の拳銃は?」
「え?えと、持ってるけど、どうすればいいの?」
「動くなぁっ!」
 怒声のほうに振り向いた2人は、思わず、ゲッと声を出した。最初に倒したと思っていた男が立ち上がり右近を羽交い絞めにしてナイフを突きつけていた。
「やっほー。金さん、ゴメン、捕まっちゃった〜」
「やっほーじゃねぇ!バカヤロウ!」
 ひらひらと手を振る右近に、普通にツッコミを入れてキンタは頭を掻き毟った。
「おい、小娘!こいつの命が惜しけりゃ、その拳銃をよこせ!」
 ナイフですみれに、来い、とジェスチャーした男は、ナイフの切っ先が赤く染まっているのに気がついた。右近が倒れ掛かる。
「う…うわぁぁっ!!」
 男はナイフと右近を放り出し、逃げようとする。その進行方向にいたすみれは、とっさに身体を落とし、片足を軸にして回し蹴りの要領で、男の足をすくい上げる。顔面を床に打ちつけ、今度こそ男は動かなくなった。
「おい、大丈夫か?!」
 再びカウンタを越えて駆け寄ったキンタに、すみれは肩をすくめた。
「右近、Aクラスの人達に通じて以来、味を占めたのね」
「へ?」
 ナイフに顔を近づける。嗅覚が捕らえたのは、トマトの匂い。
「いやー、驚いたね〜、あれは」
 傷一つなく、まいったまいったと笑う右近に、キンタは思わず首に手をかけた。
「てめぇは何でそう人を慌てさせるのが得意なんだよ!」
「ちょ、金さん、首、しまってる、わ〜〜」
 そうこうしているうちに、行員の連絡によって警察が到着し、2人の男はパトカーに乗せられ去っていった。金庫へ同行させられた男性行員はやはり共犯で、より多くの金を盗もうと車のトランクに運んでいる所を捕らえられた。
「ご協力、感謝します」
 警官に敬礼をされ、3人は、顔を見合わせて笑った。



「なんで俺だけあんなに説教時間が長いんだよ!」
 夕焼けが直に入ってくる旧校舎。キンタは雑巾を床に叩きつけ、誰にともなく文句を言った。
「え〜、それは、言われたじゃん。唯一現場経験があるQクラスのお前がそんなんでどうするって」
 箒をかけながら、右近が、初めて本郷先生に会ったねぇ、と笑う。
「でも、評価はする、とも言ってたじゃない?」
 窓を拭いていたすみれが振り返る。
「その、評価はする、から延々1時間だぞ、俺は!」
 あのヤロー、と1人怒りをたぎらせるキンタに、私達だって罰として掃除してるんだから、と窓を開ける。すみれは、まだ素人同然なのだから軽率な行動はするな、と注意を受けただけで、右近はさらに七海から、今回は運がよかったと思え、と釘を刺され、釈放されていた。キンタからしてみれば、右近が事態をややこしくした張本人なのだが、本郷相手にその言い訳は通用しなかった。
「ま〜ま〜、それだけ目をかけられてるって事だよ、きっと」
「そうそう。いつまでもふてくされていないで、掃除終わったら何処か食べに行こうよ」


「……」
「…どう思うよ、これ」
 その頃、本郷と七海は、資料室の机の前で、腕を組んでいた。リボルバーからライフルまで、一通りの銃が並んでいる。そのどれもが、モデルガンであるが、一つ、見慣れないものがあった。
「…火縄銃」
「…だよなぁ。そうだよなぁ。何でこんなものがあるんだ?」
 布にくるまれて棚の奥に仕舞われていたそれを七海が見つけ、開けてみれば古い鉄の銃身が目に入った。外見は昔、社会科の教科書で見たような、火縄銃そのものだ。だが、一体、いつの間に誰がこんなものをここに置いたか、という疑問が当然湧いてくる。
「可能性としては、ドクロちゃんだけど…こんなモデルガン作ってどうするんだ?」
 コンコン、とドアがノックされ、片桐が入ってきた。机の上に目を留める。
「…2人とも、どうしたの?銀行強盗でもするつもり?」
「紫乃ちゃん、さっきの今で、それは笑えない」
「冗談よ。授業でしょ?」
 くすっと笑って、片桐は机の端に持っていた書類を置いた。
「そう。今回は、犯人達が銃に対してど素人だったから良かったんだよな。オートマはマガジン装着しただけだと一発目は弾はでねぇのに。まぁ、それだけ銃が手に入りやすくなったのかは分からないけど、早々に銃器の扱いについての授業をやったほうがいいと思ってよ」
「ところで、これについて何か知らないか?」
 本郷が指差した火縄銃を見て、片桐はしばし思案顔になり、あぁ、と声を上げた。
「先週、ドクター・ドクロが、博物館から借り受けたものが見当たらないんだけど、知らないかと探していたわ。それじゃないかしら」
「…何?」
「博物館から…って、これ、本物?!」
 やべぇ、俺、指紋つけちゃった。慌てる七海を他所に、片桐は書類の中から、紙を一枚取り出した。
「そういえば、七海君。貴方の案はやっぱり却下されたわ」
「案?」
 本郷の問いに、片桐は紙を渡す。不定期で行なっている、DDCおよびDDS手帳の内容改正案についての書類だった。
「…七海、これは何だ」
「いや、やっぱり一応食いもんだから、粗末にしちゃいけねぇだろ?」
「だからって、手帳にこんなものが入っていたら、普通は怪しまれるわよ」
 ピッキングツール等もあるゆえ、内容改正には警察の許可も必要なのだ。確かに、これでは却下されるに違いない。

 必要と思われる項目の記入欄には、七海の字で大きく『血糊』と書かれていた。



050731
最終回で右近とすみれがDDSに入学したと知って、是非この3人で何か書きたいな〜と思っていたのと、本当はDDS一期生で銀行強盗ネタをやろうと思っていたのですが、話がさっぱり思いつかなかったので、今回は現DDS生徒に譲りました。
右近は、現場をややこしくさせつつ事件の真相に迫る、みたいな、ある意味はた迷惑な探偵になりそうな気がするんですけどね(笑)。彼には、講師陣も振り回されるに違いない。そのうち「昔のお前にそっくりだな」「いや、むしろドクロちゃんじゃねー?」とか愚痴っていたら、右近の勝利でしょう(何の)



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