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WHAT DO YOU HAVE IN YOUR HANDS ?


「――というわけだから、答えはこうなるの。解かった?」
「わかんねぇ」
「俺もわかんない」
「もー。っていうか、キンタ、こんなのが解からなくてどーやって高校入ったのさ」
「楽しそうだなー、お前ら。俺も混ぜてくれよ」

 土曜日。放課後の教室。数学の臨時講師を務めることになったカズマと、二人の生徒、キュウとキンタが『確率』についてあーでもないこーでもない、と騒いでいるところを通りかかったのは七海だった。トレードマークでもある帽子と上着を脱いでシャツの袖をまくった姿は、外資系のビジネスマンに見えなくもないな、とカズマは思いつつも、七海の両手を見て撤回する。
「…何でカップラーメンとポットなんて持って、ここにいるんですか?」
「何でだと思う?」
 足で椅子を引いて、キュウの真後ろの席に座った七海は、カラフルな印刷が施されたフィルムを破る。
「それ、昨日出た新商品っすよね?」
「お、詳しいな、遠山」
「講師室、って飲食駄目なんですか?」
 素直に理由を考えていたキュウが、一番最初に思いついた事を口に出す。
「いや。基本的に物を食べようが寝ようが、自由だ」
 寝ようがって、という3人の言葉は聞こえないふりをして、七海は作り方の手順をざっと読む。待ち時間は5分。昔は一律3分だったのに、最近のカップ麺はいろいろこだわりがあるらしい。
「あーっ!わかった!俺、さっき講師室行ったもん!」
「待て待て待て、そこまで!」
 突如大声をあげたキュウの口を慌ててふさぐ。別に言ったからといって、何がどうなるわけでもないが、乱雑に積み上げていた書類がなだれを起こして置き場がなかった、というのはあまりにも間抜けである。
「こだわりのダシ、ねぇ。前に食べた煮干ダシのしょうゆラーメンは上手かったけどな」
 話を逸らすように、キャッチフレーズを読み上げる。
「先生って、よくこういうの食べるんですか?」
「ん?まぁ、気になったものは、買うよ。普段は、食べねぇけどな」
「七海先生って、自炊するんですか?」
「時間がある時は」
「えっ、できるんすか?」
「失礼な事を言うな、遠山。潜入捜査で料理人になったのだって、1回や2回じゃねぇんだ」
「でも、先生達の食事って、あまり想像つかないね」
 キュウがふと口にした疑問に、お湯を注ぎながら、そうだなぁ、と七海も考える。
「特にDDCは不規則勤務だからな。深夜まで、てのもざらだし。外食しようにも時間があわないとかあるから、自炊か惣菜買ってきて食ってる、てのが多いんじゃないか」
「…僕、本郷先生がご飯食べてるって想像できないなぁ」
「あぁ、あいつは自炊派。料理、馬鹿みたいに上手いぜ」
「…え?」
「うそっ」
「まじっすか?!」
 ポツリと呟いたカズマに、返した答えは3人を驚愕させるにはあまりにも十分で、七海はその反応にニヤリ、と笑う。
「あ、いや、えーと、その」
「言わねぇ、言わねぇ。安心しろって。当然の反応だ」
「でも、七海先生はどこで本郷先生の作った料理を食べたんですか?」
 普段のやり取りを見た限りでは、本郷が七海に料理を作るということはおろか、七海が本郷宅に食べに押しかける、ということも想像のつかないカズマは、早くも割り箸を割っている七海に訊ねる。
「合宿。食事は当番制だから、大体1人1食は作ることになる」
「合宿?DDCの?」
 おもしろそー、と身を乗り出したのはキュウ。
「まぁ、結構面白いぜ?ドクター・ドクロが参加すると微妙だけど」
「何故ですか?」
「……秘密」
「えぇー、ずるい。教えてくださいよ」
「無事にDDSを卒業してDDC勤務になったら、絶対1回は参加するんだ。それまで楽しみにとっておきな。その時に本郷も参加すれば、もれなく上手い飯も食える」
 その場合、しごかれて飯どころじゃなくなるかもな、と笑う七海に、笑えない冗談はやめてください、とキンタが抗議する。実際そのような状況になり得るのは、本郷よりもドクター・ドクロが参加した時なのだが、それは黙っておこう。
「ところで、鳴沢先生の授業はどうなった?」
「匂いが気になって、それどころじゃねーっすよ」
「あ?そう?それは悪いな。何せキャッチフレーズが『こだわりのダシ』だから」
「七海」

 今、この教室に背景を付けるとしたら猛吹雪だろうか、荒れ狂う海か、いや鋭く暗闇を切り裂く稲妻か。そんな事をこそこそ話し合う3人をよそに、呼ばれた本人はきょとんと返事をする。
「あれぇ?本郷、何やってるの」
「それはこっちの台詞だ」
 とにもかくにも気温は絶対5℃ぐらい下がった、という共通意見で納得した3人は、目線を合わせないように、戸口に立っている本郷と、ちょうど教室の真中に座っている七海を見比べる。
「俺は、見ての通り飯だけど?」
「時計は見たのか」
「5時55分」
「…会議は何時からだ」
「…あ。5時半からだったけ?」
 そうか、携帯上着に入れっぱなしか、と七海はポンと手を打つ。
「あと、5分待ってくれねぇか?」
 悪びれた様子もない七海の台詞に、本郷の雰囲気が変わったのが、3人にもはっきりとわかった。思わず七海に向かって逃げろと言いそうになったのを、キンタは慌てて呑みこむ。
 その変化は七海も感じ取れたのか、少しばかりカップ麺を恨めしそうに眺め、キンタに箸を差し出す。
「どうも、待っててくれねえみたいだから、お前、変わりに食っといてくれない?」
「――へ?」
「で、後で感想聞かせてくれよ、欠食児童」
 そう言って、ポットを持って立ちあがる。すでに本郷は戸口から姿を消していた。

「うわー、うまそーっ!キンタ、俺にもちょっとちょうだい!」
「このチャーシューはやらねぇぞ。1週間ぶりの肉だからな!」
「肉って…しかも1週間ぶりって…」
「うるせー。オメーはザリガニのサンドイッチでも食ってろ!」
「えぇ?カズマ、ザリガニなんか食べるの?」
「違うよ!オマール海老だよ!一文字もあってないじゃん!」
 緊張感が解けたと同時に、3人――むしろ2人を襲った空腹感。ラーメンの取り合いをしているキュウとキンタを眺めつつ、カズマはある事に思い当たる。
「キンタって、今日ご飯食べてないの?」
「あぁ。給料日が明日な上に残金が底をついた。昨日の夜から水だけ。何で?」
「七海先生が、欠食児童、って言ってたじゃん」
 あ、そうか、とキュウもキンタを見る。
「何でわかったのかなぁ。普段と顔色も変わってないし。そんなに物欲しそうにしてたのかな?」
「さぁ?探偵だからじゃねーか?」
「…キンタ、全然考える気ないね」


「あーあ。あれ、限定物なんだぜ?今度買いに行ってなかったら、お前のせいだからな?」
 追いつくなり、ラーメンへの未練を語り始めた七海は、そうだ、と本郷の前に走り出る。
「この代償は、お前の手料理っての、どうだ?」
「…一体何の代償だ」
「俺も最近忙しくてさー。遠山ほどじゃないけど、バランスの取れた食事してねーんだ。ドクロちゃんに頼んだ日にゃ、また『ポイズン』フルコース食わされそうだし」
 あの、恐怖の合宿の。その言葉に本郷は思わず、あれか、と顔をしかめる。
「遠山に飯食わせてやったんだから、俺にも何か食わせてくれよ」
「貴様に食わせる義理もないし、遠山の食生活がどうだろうと、それは自己責任の問題だ」
「うわ、冷てー。自分の教え子が腹すかせてるってのに。お前、絶対マッチ買わないだろ?」
 頭の中で単語と話が繋がるまで、若干の時間を要した。こうなると、何を言い返しても七海にとっては『遊び道具』になることを、本郷は熟知している。無視するのが妥当だ。それに、ちょうど。
「彼女に、納得のいく説明ができるのなら、作ってやってもいい」
「彼女?」
 後ろ向きで歩いていた七海が振り返る。旧校舎の出口。本郷と同じく自分を探していたのだろう、穏やかな表情で待ち構えている姿を見つけ、否応無しに足が止まる。ポットを隠すには遅すぎたようだ。


「あぁ、お帰り、本郷君。七海は見つかったかね?」
「片桐先生に引き渡しておきましたが」
「それはご苦労さん。では、今日はこれで終わりにしよう」
 確か、団が本郷と片桐に頼んだのは七海をつれて来い、という事ではなかったか。他の職員は話が掴めず、お互いに顔を見合わせていた。真木も、隣のドクター・ドクロに何の事か訊ねようとしたが、彼の手元を見て納得する。今回の合宿内容の提案者である彼は、嬉々と して、会議の議題でもあったDDSからの参加者の欄に、七海の名を記していた。いない人間に拒否権はないらしい。




041117
最初はカップラーメン談話のはずでした(既に意味が分からない)。もともと、講師陣の食生活が分からない。というか、食事風景も想像つかない(本郷先生、原作で携帯食は食べていましたけど)。でも絶対本郷先生は料理上手そう。七海先生も普通に作ることは出来そうだけど、果たして毎日作ってるかというと微妙(笑)。ドクター・ドクロは研究者なので、ビーカーでカップラーメンは当たり前(ぇ



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