TOPcreation > WHAT DID HE EAT WHERE ?



WHAT DID HE EAT WHERE ?


「…はぁ」
 ため息をついて、キュウはペンを放り出した。その正面で、キンタも大仰にあくびをする。
「やってらんねぇ。補講って何だよ、補講って。DDSの居残りだけでオレは死にそうなんだ」
「最後の救済措置でしょ?義務教育のキュウ君はともかく、キンタは退学にしたって問題ないんだし」
 キンタの隣で、カズマはシェイクをすする。DDSが臨時休校になった日曜日の午後。キュウとキンタは、それぞれ来週行なわれる学校の試験と補講の勉強に勤しんでいた。偶然通りかかったカズマにとっては不運だったに違いない。
「試験で3つ以上赤点取ったら、問答無用で1ヶ月居残りかあ…」
 普段、学校の勉強は2どころか10の次ぐらいのキュウも、そのペナルティはゴメンこうむるらしく、3人でファーストフード店の窓際の席を占領すること、はや3時間。途中で、連絡が行き届かずDDSに来てしまったリュウも巻き込んだものの、だんだんとなくなる集中力と反比例して窓の外や店内を眺めている時間の方が多くなった。
「ここさ、DDSから一番近いとこだよね?」
 おもむろにキュウが口を開いたのは、他の3人も見覚えのある顔が横を通ったからだった。知り合いではない。DDS内で見た程度の人物だ。
「そうだね」
 近いとはいえ、入るのは今日が初めてだったが、一般客に混じって、DDSの生徒らしき人物もちらほらといる。それは時折聞こえてくる会話の内容からもたやすく判断でき、と同時に、こういうところで事件や授業の話をしてもよいのだろうか、とリュウは思った。
「先生たちも来るのかな?」
「来ない来ない。本郷がハンバーガー食ってる姿を想像してみろ。ありえねぇ」
 ぱたぱたと手を振って、理由にはなっていないが説得力のあるキンタの台詞に、カズマはずずっと一息でシェイクを飲み干して反論する。
「でもこの前見たよ。本郷先生」
「ぶっ」
「わ、キンタ、ノートが!」
 コーラを噴出してなおかつ咽るキンタに、キュウは慌ててノートにとんだしずくを拭き取る。
「見たって…ここで?」
「いや、店舗は違うけど、同じチェーン店」
 本郷がファーストフード店にいた、というのはリュウにとっても驚きだったらしく、それを隠そうともせずにカズマに尋ねる。カズマとしては、リュウがここにいるのも、度合いは違うにせよ驚くべきことだったが。
「ほ、本郷がハンバーガー…」
「いや、書類見ながらコーヒー飲んでいただけだったけど」
 なおも呟くキンタを一瞥して、キュウは参考書を閉じて質問をする。何かを思いついたようだ。
「ねぇ、カズマ。それっていつ?」
「昨日。場所はね…」
「待って」
 慌てて口を押さえる。先ほどまでとはうって変わって、イキイキとした目。
「どうせなら、推理してみるのも面白いんじゃない?」
「キュウ、勉強は…」
 リュウの指摘は何処吹く風、キュウは腕を組んで考え始めた。いくらなんでも、情報と呼べるものがないだろうに。
「じゃぁ、今から僕、そこへ行くよ。分かったらおいで」
「うん、分かった!」
「ちょっと、キュウ…」
「俺も参加する。本郷がハンバーガー食ってる姿は…」
「だから食べてないっての。あ、もう1つヒントね。僕も息ぬきにちょこちょこ行く場所だけど、七海先生も良く見かけるよ」
 じゃーねー、と手を振ってカズマは出て行った。
「七海先生も…?」
「…ある意味、本郷より目立つんじゃ…」
 そのやり取りを見て、2人からすっかり補講のことは消えてしまったと合点したリュウも、話に加わる。
「昨日といえば、本郷先生の授業が急な出張でなくなった。カズマは帰り、海堂さんが車で迎えに来ていたし打ち合わせと言っていたから、姿を見かけたのはDDSへ来る前だろう」
「どの辺りで見た、が問題だよな。フツーなら、本郷がいたということはDDS近辺。でもここじゃぁない…」
「そう。カズマは書類を見ていた、と言った。昨日DDSは9時半からだったから、カズマはその前に会った――ということは、本郷先生も出張の前だと見ていいんじゃないかな。昨日の七海先生の話しぶりからすると、かなり遠方だったみたいだから、戻ってきたとしても夜遅くだろうし。そうすると、その書類と言うのは、出張に関するものの可能性が高い。ただ――」
 ぐるりと店内を見渡す。座席数やレイアウトこそ違えども、ほとんどのファーストフード店はカウンタ席とテーブル席がある。ここも、学生が多いからかにぎやかだった。
「本郷先生にしても七海先生にしても、DDS近辺の店で書類を広げるくらいなら、DDSの中でやるだろうね」
 誰の視線があるかも分からないところで、必要なしに書類に目を通したりはしないだろう。意識のあるなしの差はあるが、2人とも目立つ風貌をしている。グループが多いこういう店内では、話題の主にはなる。
「だから多分、出張先、もしくは目的地へ向かう前、駅や空港での待ち時間、と考えた方が自然だと思うけど…」
「で、時間的に、後者か…」
「ただ」
 リュウは微かに首をかしげる。
「七海先生がよく来る、ということを考えると、そう遠くではない。少なくとも、空港は当てはまらないね。カズマが、DDSに来る前に寄ったのなら、なおさら」
「本郷先生は昨日、どこへ行ったんだろう?」
 交通手段としては、他に、車や徒歩、という選択肢も出てくるが、彼のことだ、前者なら車の中、後者ならDDC・DDS内で必要事項には目を通すはず。出張自体が突発的なものにせよ。
「あんま、ファーストフード店で依頼人と待ち合わせ、てのも聞かないよな」
 コーラが無くなったカップの中で、氷をかき混ぜていたキンタが唸る。大概はDDC内を初めとした人目につかない場所だ。むろん、依頼人の要望に応えることはあっても。
「そうだね――」
 言いかけて、リュウは黙り込む。特に都会ならではの気もするが、こういう場所で、他人への興味というのは極端だ。つまり、必要以上に興味を持つか、全くの無視か。今、自分達がいるような場所であれば、友人同士、気になる人物を話題にも挙げよう。だが、1人客が多ければ。そう、それも忙しいビジネスマンがいい。自分に干渉されたくない代わりに、他人にも注意を向けない。何より、カズマがそうではないか。息抜き、というのであれば、他人の視線の的になる場所にはいかないだろう。ただでさえ、モバイルを手にしている小学生と言うのは――。
「少なくとも、無線LANは使えないと困るね。カズマ、圏外だとストレス溜まるし」
「そうだな。でも、最近、使えるところも多いし」
「せめて、本郷先生が昨日、何処へ行ったか分かればなぁ」


「いらっしゃいませ」
 明るい、しかし落ち着いた声がかかる。多くの線が乗り入れしている主要駅。乗降者数もその辺りの比ではない。老若男女が入り乱れる構内だが、外に一歩出れば、年齢層は一気に縮まる。その駅からすぐの地下街。すべてがカウンタ席の店内は、仕事をしているスーツ姿の大人しかいない。無線LANが繋がり、しかもカウンタにしたって、すりガラスのパーテーションで区切られているのだ。そして他人に関心を持たない客。ある意味、安全な作業場でもある。
 ジュースだけを注文して、ぐるりと見渡す。いくつか空いている席とともに、昨日は本郷が、時々見かけるときにはいつも七海が座っていた席も目に入る。そこには既に人がいた。
「…え?」
 小さく呟く。後姿は、グレーのスーツを着込んだ、普通のビジネスマン。だが、彼の身体からかろうじて見えるのは。
「…学会、かな」
 きっとあの席に座るのは、この中でも変わり者だろう。そのくらいの認識は仕方あるまい。カズマは、見なかったことにして離れた席にカップを置く。

 虚空の瞳をもつ彼の「大切な彼女」は、いつもとは違うリボンを揺らせ、こちらを見据えていた。




06/01/30
本郷先生が店内でハンバーガー食べている姿は想像つきにくいです。携帯食は食べてましたけど。マ○ク系よりはド○ール系のほうが、まだイメージはつく…かな






TOPcreation > WHAT DID HE EAT WHERE ?