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DOLL’S FESTIVAL


「メグの家って、雛祭りするの?」
 いつものようにハードな授業が終わり、帰りの支度をしていた時、キュウが何気なく尋ねてきた。
「小さい頃はしていたけれど…。あ、でも今でも雛人形は出すわよ?何で?」
「いや、オレ、雛祭りってしたことないから」
 当たり前のことを言う。
「そりゃ、男子には縁がないもんね」
 同じく、男兄弟のカズマが同意する。リュウは、イベントとなるといつも不思議そうな顔をする。それほど日本の行事は特殊なのか、とメグの思いをよそに、キュウは話を続ける。
「キンタは、お姉さんがいるんだよね?やっていた?」
 毎回のことではあるが、皆より多く出された宿題に、頭を抱えていたキンタが顔を上げる。
「ん?あぁ、雛祭り?何か、やってた記憶もあるなぁ」
 でも、小さい頃の雛祭りって――。
「雛祭りって、何やるの?」
「何って」
 キュウの質問に、珍しくメグとキンタが顔を見合わせる。
「お雛様を飾って、ちょっとしたご馳走があって。ケーキが出てきたときもあったかしら」
「歌があったよな。何だっけ。明かりをつけましょ、爆弾に」
 昔歌っていたフレーズを口にしたとたん、4人の動きが止まった。
「何それ?爆弾?」
「え?違ったっけ?」
「違うわよ。明かりをつけましょ、ぼんぼりに、よ」
「オレ、聞きたい、それ。キンタ、全部歌ってみてよ」
 歌ってみる。覚えているのは自分でも驚きだったが、キュウとカズマは腹を抱えて笑い転げ、メグは少し怒っているようだった。
「キンタ、それお葬式の歌じゃないか?歌詞にも、『今日は悲しいお葬式』ってあるんだし」
「リュウ君、それ、突っ込みどころ、違うから」
 笑いながらも、カズマが冷静につっこむ。そして、いつものようにキーボードを叩いて、目的のものを見つけたようだ。
「替え歌、だよ。子供って、そういうの好きだもんね」
 そういうお前が子供だろう、とキンタは心の中で返す。
「で、メグは今年、雛祭りするの?」
 キュウが話を最初に戻す。再び、何で、と聞き返そうとして、メグは気がつく。
「――もしかして、雛祭り、やりたいの?」
「うん!」
 照れも何もなく、満面の笑みで頷く。つられて笑う。
「そう。じゃぁ、3日、授業終わったら家でやる?お姉ちゃんに、頼んでみる」


『雛祭りの歌?』
 画面の向こうで、すみれは少し考えているようだった。キンタが唯一、贅沢している、テレビ電話機能つきの携帯電話。
「そう。明かりをつけましょ、爆弾に、ってお前が歌ってたんだろ?」
 小さい頃の雛祭りと言えば、すみれの家でやっていた。姉達は東京だったから、この歌を歌っていたのは、彼女のはずだ。
『んー。そんなような歌もあった気がするけど…。右近じゃない?今いるから、呼ぼうか』
「は?」
 右近ー、キンタからー、とすみれの顔が画面から消える。なるほど、アイツなら考えそうだ。というか、何ですみれの家にいるんだ、という考えが過ぎったが、夏に起きた事件を思い出す。
『やー、金さん、お久しぶりー』
 相変わらず、のほほんとした表情と口調で、右近が現れる。元気そうだった。小さな画面に、かろうじてすみれも映っていた。キンタは先ほどの質問を繰り返す。
『そうだっけ?そうかもしれないね。でも、何で?』
 答えになっていない回答と、逆にされた質問に、キンタは言葉に詰まる。
「…別に、何でもねぇよ」
『ねぇ、久しぶりに、雛祭りしない?週末にでも』
「あぁ?この年になってかよ?」
『いいじゃない。DDSは休みじゃないの?』
『そーだよ、金さん。おいでよ。金さんがお内裏様で、すみれちゃんがお雛様で、俺は3人官女でいいから』
「な?」
『何言ってるのよ、右近!』
 画面がぶれる。
「そうだよ、右近。3人官女って女だろ?」
 キンタの台詞に、すみれは、一瞬息を呑んで、馬鹿、と電話を切ってしまった。
「…?」
 何か怒るようなことを言っただろうか。首を傾げてみても、見当がつかない。


「あー、切っちゃった。久しぶりだったのに」
 残念そうな右近に背を向けて、すみれは息を整える。少し、顔が火照っている気がする。この2人のことだから、他意はないだろうけど。
「ねぇ、右近。雛祭りやるってなった場合は、3人官女、やるのよね?男に二言はないものね?」
「え?いや、あれはその、言葉のアヤで…」
 ずいっと顔を近づけられて、右近は1歩下がる。
「やるって言ったわよね?私の知り合いから、巫女装束は借りられるから」
 そんなぁ、と泣き顔作る右近に、騙されないわよ、とすみれはメールを打つ。これなら、キンタを呼ぶ格好の理由になる。


「なぁ、カズマ。3人官女って、女だよな?」
『はぁ?』
 電話の相手は、眠そうな声を出した。まだ10時だというのに、所詮は子供だ。
『そんな当たり前のことも分からないの?キンタ、やばいんじゃない?』
 僕もう寝るねー、宿題頑張ってー。最後の一言に、血の気が引いた。もう10時。
「お、おい、カズマ!」
 すでに携帯からはツー・ツー、という音しかしなかった。薄情者。一言、電話に向けて吐き捨て、待ち受け画面を表示させる。特にこだわりもないカレンダー。今週末は、DDSは休みだ。バイトは、まだ交代がきくだろう。かろうじてだが財布に余裕もある。久しぶりに、行ってみようか。

 黒い教科書と白いノートを広げ、少し気が滅入ったところへ、メールの着信を知らせる電子音が鳴った。



050227
そのまま、雛祭りの話です。Qクラスの男子で雛祭りしたことあるのは、キンタだけかな?と。で、たぶんそれはすみれの家でだろうな、と(願望)。今現在、本編ではとても望めないような(涙)ほのぼのを目指したつもりです。右近とすみれの力関係(ぇ)がいまいち分かりませんが、キンタも右近も、すみれの押しには弱そうです。週末に、群馬の山奥に響き渡る悲鳴(笑)
替え歌ですが、結構いろいろ種類があるようで。私が子供の頃は
「明かりをつけましょ 爆弾に / ドカンと一発禿頭 / 5人囃子の首ちょんぱ / 今日は悲しいお葬式」
でした



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