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THE REASON THAT CAME TO HERE


 肌寒い空気と裏腹に、心は熱い。春を通り越して夏まで行ってしまったかのようだ。教室に戻るという意志に背き、足が向かったのは、旧校舎。
「…さすがに、いないわね」
 明かりの消えた教室。Qクラスの授業が終わって1時間は経っている。いつもの居残り組も、いない。
 椅子を引き腰掛ける。しん、とした空間。
「…Qクラス、か」
 新設された時には、当然、入れるものだと思っていた。団守彦の後継者。学園の大半は、本気かどうかはともかく狙っていて、それに限りなく近いのはAクラス上位の自分達。
 あれから一年が経った。あまりにも急激に、色んなものが変わってしまい、やっと落ち着いたと思ったのはつい先日。そして自分は、また別の場所へ向かおうとしている。
 黒板をひたりと見据える。そう、本当ならここで授業を受けていたのは自分。教壇に立っているのは、自慢の叔父であり日本を代表する名探偵。
 Aクラスにも団の講義はあった。しかしそれは「特別授業」の言葉通り、特別なもの。羨みか妬みか。彼の持っている全てを教わった5人に対する――。
「…5人、だけじゃないわよね」
 もっと前に、団から直接教えを受けた人はいる。8年前。それを知ったのは団の葬儀の時。
 1期生、と呼ばれる彼らはDDSの礎を築いた。団守彦の右腕を名乗って譲らない七海光太郎。DDSの女性ならば誰もが憧れているであろう片桐紫乃。自分達とほとんど接点はないがその優秀さは広く知られている本郷巽。
 彼らはどうだったのだろう。誰よりも団の近くにいたという自負はなかったのだろうか。Qクラスが出来て、そこから後継者が選ばれるという話が出たときに、何を思ったのだろう。彼らが何故、探偵を志したかは知らない。そもそも、あのメダルを――。
「貰おうという気はあったのかしら」
「何を?」
「キャッ?!」
 呟きに返ってきた声に、雪平はさすがに声を上げた。後方の窓から顔を覗かせているのは、さっき学園長室で会ったばかりの七海。窓が開いた音はしなかった。
「だっ、なっ、い、いつの間に?何、してるんですか、先生!」
「いやー?通りかかったら、雪平が黒板見て黄昏ているから」
「なっ…」
 そんな理由で覗き見ですか。文句を言おうと口を開き、そのまま止まる。自分を見上げているのは、10代ではと疑いたくなるような、歳不相応の表情。それでも、どことなく余裕みたいなのを感じられるのが、気に食わない。
「どうした?」
「――あの」
 聞くか、聞くまいか。悩んだのは一瞬。
「もし、団先生が、あのメダルを譲るといったら、七海先生は受け取ってましたか?」
「いや」
 即答。こちらが拍子抜けするほどの。
「俺が団先生の後継者になったら、『七海光太郎』ってブランドが消えてしまうだろ?」
「ブランド…?」
「俺が、俺の名で警察から直接メダルを貰うなら、いいんだけどな」
 どこまで本気か、どこまで嘘か。この男の真偽を見極めるのは難しい。むしろ、出来る人間が限られている。そのうち一人は団だった。他の面々は、七海以上に理解するのが厳しい。本心を悟らされないという点では、優秀な探偵の条件に入れてもいいのかもしれないが。
「それより、お前、警察に行くんだろ?こんな所で油売ってて、いいのか?」
「別に油を売ってるわけじゃ…」
 とはいえ、何故ここに来たのかと言われれば答えに窮するのは事実。――いや、その前に。
「七海先生こそ、何でここに来たんですか?」
 敷地内で一番奥まったところにある校舎。通りかかる、という選択肢はないはずだ。
「この建物について知っている人間は少ないからな」
 唐突に。今まで浮かべていた、年下とも思える表情が消え、そこにあるのは、大人の顔。
「これから新たな一歩を踏み出す。そんな時、初心忘れるべからず、って、スタート地点に立ってみる。DDSの生徒なら、大概、門とか、本校舎とか」
 いつも、彼の意図は読み取れない。これが容疑者だったらと思うと、憂鬱になってしまう自分はまだ未熟なのだろうか。
「でもさ、俺はこの旧校舎なんだよ。本郷はそんなセンチメンタルなもん持ってないから分からないけど、そうだと思う。し――片桐先生も。で、団先生も、同じ」
 帽子を被りなおして、にやりと笑う。
「それで、十分なんだよ、俺は」
「…は?」
「で、お前もどちらかといえば、同じ。きっと、Qクラスもな」
「…はぁ」
 早く行かないとまずいぞ。それだけ言って、七海は去って行った。慌てて窓辺に寄り、身を乗り出す。一体、何が言いたいのだと――。
「――え?」

 やわらかい光の中、背を向けて歩いていたのは、黒い学生服を来た少年だった。




06/12/28
雪平嬢の団先生に対する思いは、AクラスよりもQクラスに近いのかと。だけど、どこか違うと思うんですよねー。1期生はさらに。
でもって、七海さんと雪平嬢の関係って、他の講師・生徒の関係とはちょっと違うと思う。何となく、従兄弟のような感じ?本郷先生には襟首掴まれる(笑)七海さんも、雪平嬢の前では余裕のある大人でいてほしいなぁ、とかとか。でも変なところで勝てないとか(笑)





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