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IF A BUD BEGINS TO SWELL


 音量を落としたテレビに、一面の華。辛うじて聞き取れる音量で、リポーターが、寒桜がどうの、と言っていた。それは、淡々とした電話対応の声によって、すぐに消えた。
 ――桜。玄関横の木には、まだつぼみもついていない。


 ダン、と音を立てて七海は教壇へ立った。彼らと同じ視線で、同じものを見たかった。しかし、それは叶わない。まず、自分が座っていない。別室にある電話から離れられない本郷もだ。座っているのは紫乃1人。しかし、机の上にあるのは本やノートではない。紙の束。
「七海君?」
 書類の整理に追われ、七海の行動に気が付くのが遅れた紫乃が、訝しげに尋ねる。何をやっているの?
「うん」
 生返事をして、机に肘を付き、組んだ手に顎を乗せる。
「オレら、入学式、やったんだよな。まぁ、簡易版みたいなものかもしれないけど」
「えぇ」
 それから、まだ1年も経っていない。突然、誰も立たなくなった教壇。
「卒業式は、やっていないよな」
「――そうね」
「やることって、あるのかな」
「……」
 答えの代わりとでも言うべき、沈黙。この状況で、それが行なわれることは皆無に等しい。教えも十分に請うていないのに、なし崩し的にDDCの仕事へ移行して、それでも何とかやっている。1本の矢と3本の矢の違いを、身を持って実感している。
「紫乃ちゃん」
「何?」
 ――つぼみがふくらみ始めたら。
「オレさ、DDSをオレらだけで終わらせたくないんだ」
「…そうね。それは、皆も同じ気持ちだと思うわ」
「もしも、いつかオレがこの教壇に立ったら」
 何故、いつまでもDDSから、この教室から離れられないのだろう。この場でやらなければいけないことが残っているからだろうか。この場で対応できるからだろうか。しかし、ここにいなければいけない理由はない。つまり、ここにいたいだけなのだ。それは甘えだろうか。
「新入生に入学おめでとうって言って、ずっと教鞭とって。最後に、卒業おめでとう、って言ってやりたいんだ」
 ――そのつぼみを開かせる、ほんのちょっとした呪文を。




06/05/28
彼らは1期生ですけれど、それは『第1期入学』であって『第1期卒業』ではないのかな?とか
…未だに卒業してないというのもあれですけど(笑)。





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