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THERE IS A BOY


 家に帰ると人が居た。
 むろん家族や居候がいれば当然だし、知り合いが来て少し留守番を頼んだ、というのであれば、これもあり得る話だが、出張から帰ってきた今の本郷にそれは当てはまらない。
 ならば、泥棒か。しかし、それもおかしい。
 居たのは1人の少年。テーブルの上には山のような食べ物。コンビニ弁当の空き箱や空になったペットボトルが端に寄せられている。一見、少し早い夕食だ。最初は一心不乱に食べていた少年も、お茶に手を伸ばした際に本郷が視界に入ったのか、顔をあげた。
「・・・」
 泥棒なら、慌てるなり開き直るなりするだろう。しかし少年の顔に浮かんだのは驚きだった。そう、今の自分と同じような。つまり、彼からすれば本郷が侵入者ということだ。
 一瞬、家を間違えたとも思ったが、鍵は合ったし、家具類を見てもここは間違いなく本郷の部屋で、あろうことか少年が着てるシャツも本郷のもの。
 これが七海なら問題は――別の意味であるにせよ――ないのだが、さすがに子供に化けることは不可能だ。
「たっだいまぁ」
 誰かと問おうと口を開きかけたとたん、異様に明るい声が入ってきた。
「…って。あれぇ?本郷?」
 噂をすれば影。いつもの白スーツに、衣料品店の袋を両手に抱え、本郷がいることが意外だという面持ちの、七海。
「あぁ、何だ、仕事終わったんだ。あ、コイツ、同僚の本郷ね」
 気にしないでいいよ、と少年に言う。お前は少し気にしたらどうだ。そう言いたくとも、状況把握が出来てない今、うかつに喋ることはできない。七海は少年に笑ってみせる。
「悪いな、この部屋たまに仕事で使ってるんだ。何人かは合鍵を持っている」
 なるほど仕事か。これで本郷は、この場では不本意ながら文句を言える立場でなくなった。
「でも何の――あ、そういや書類を渡さなきゃいけなかったんだ」
 空いた椅子に袋をおいて少年に食べ終わったら着替えるよう指示をし、七海は本郷を促して廊下へ出る。少年は頷いただけだったが、七海に敵意は持っていないようだ。
 寝室に移動しドアを閉めて十数秒、少年が来ていないことを確認し、七海は、はーっと息を吐く。
「人探しだったんだけど、いろいろ面倒な事になって、オレ預かりになったんだわ」
「だったらDDCに連れて行け」
「もちろんそのつもりだけどさ。全身泥だらけだったし、腹空かせていたし、この近くで保護したし、俺の家はちょっと誤解されそうだし――あぁ今度の潜入捜査用にナース服一式出したままだったから」
 最後の言い訳めいた言葉はともかく、緊急措置であるのなら、納得はしよう。しかし。
「それにさぁ、やっぱり女の子だし少しでも早く綺麗にしてあげたいじゃん。お前のシャツはでかいから、着替えにはなるし」
 女の子。思わず聞き返そうとして言葉を飲み込む。七海は気がついた風もなく、話し続ける。
「こういう時、お前の家は便利だよ。何せ、ものがなさすぎて誰が住んでるか見当もつかないし――でかい男、ぐらいか。あちこち詮索されても大丈夫だし」
 ビシッと人差し指を向ける。
「まさに、プロの犯罪者の家」
 それには応えない。何より聞かなければいけないのは。
「それでお前は、どこで鍵を手に入れた」
 1人うんうんと頷いていた七海が固まる。あの子供を連れてきたのなら、いつものようにピッキングツールで開けるという行為は不信感を招く。
「まぁ、何だ。以前、ちょいとロッカーから拝借して合鍵を」
 鍵は常に身につけている。スペアの方だろう。所員には更衣室のロッカーの他に貴重品専用の小さなものも与えられている。キーは指紋認証のみ、マスターキーは団と鬼首しか持っていない。その盗難の心配をせずに済む最たる場所も、この男がいる以上、無意味な気がしてきた。
「返せ」
「あの子をDDCに連れていくまで待てよ。あと2時間ぐらい。でもって、お願いなんだけど」
 睨みつけてもどこ吹く風、七海はドアを開け、勝手に移動する。仕方なくついていくと、洗濯機の前で止まった。中を見れば泥だらけの服と靴。
「――お前は靴も洗濯機で洗うのか」
「や、こういう運動靴ならいいかなぁと思ったんだけど。でも、これイマイチ動かし方わかんねーんだ。だから洗濯しておいてくんない?」
 図々しいにも程がある。だが、怒鳴る前に、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「あの子を男の子と思った事は黙っててやるからさ」




09/06/18




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