17 August
夜空を彩る大輪の華
「やはりお前か」
ギシリ、と音を立てて梯子を上る。屋根の上にいた七海は振り返って笑った。
「あー、当直か。見回り、ご苦労さん」
「仕事が終わったなら、さっさと帰れ。梯子まで持ち出して何をやっている」
「何って。お前、耳、遠くなったんじゃねぇの?」
大音響と共に明るくなる空。本郷はさらに2、3歩上り、七海が『下敷き』にしているものに目を留める。
「…お前、何を敷いているんだ」
「タオル。直にこんなとこ座ったら汚れるだろ」
「そうじゃない。そのタオルは何処から持ってきた」
「お前のロッカー」
一瞬、蹴落としてやろうかという考えが過ぎった。今日びの犯罪は、こんなささいなものを端とすることが多いのは事実だ。
だがそれも、瞬間的に照らされる七海の表情により、すぐに消えた。
「やっぱりここにいたのね」
下から声をかけられる。少し前に帰宅したはずの紫乃だった。普段とは違うジーンズ姿。
「当直室にいなかったものだから」
「あぁ、すまない」
「ちゃんと仕事しろよ」
ぶり返しそうな感情を抑えて、降りようと梯子に足をかけた。
「私もそこへ行くわ」
促されて、仕方なく本郷も屋根に上がる。歩くたびに軋む音。紫乃が続く。
「差し入れを持ってきたの」
「え?何、紫乃ちゃん、本郷には差し入れなんてしてんの?」
ずるい、といった七海の手にペットボトルのお茶が降ってきた。
「今日は花火で――2人ともいると思ったから」
ハンカチを取り出して座る。木々に囲まれた旧校舎。まるで森から花火が上がっているようだと言ったのは誰だったか。
「――久しぶりね、ここで花火を見るのは」
「――そうだな」
花火を見ること自体が。しばらく黙って夜空を見上げる。ふいに七海が口を開いた。
「なぁ、本郷。17日って何かあったっけ?」
「…お前の予定なんぞ知ったことか」
「休みたいんだけどなぁ、大丈夫かな?」
「…少なくとも18日の午前中まで、必要だろう」
「あ、そっか。帰れねぇもんな。ヘリポートもないし」
「七海君、何処へ行くの?」
「え?あぁ、花火」
「花火?」
花火のために2日間も休むの?そういいかけた紫乃は、ある場所を思い出した。そうだ。七海がわざわざ休みを取る。そして日にちだけで本郷が納得する。過去に1回だけ。
「――もし行けたら、私達の分もお願いね」
「私達って、紫乃ちゃんと本郷?ありがたみがねぇだろ?」
「――どうせ、遊び半分だろ」
うわ、ひでぇ。七海はがくりと肩を落とす。
この場所から5人で花火を見たのは、いつだっただろう。
050813
1期生トリオ。 8月17日。熊野大花火大会です。
『熊野大花火大会の起源は、お盆の初精霊供養に簡単な花火を打ち上げ、その花火の火の粉で灯籠焼を行ったのが始まりといわれています』