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The Second Day


 電話での第一報では、要領を得なかった。団守彦の秘書として、すこぶる優秀な彼女にしては珍し事だ。七海が片桐を捕まえられたのは、日もすっかり沈んだ頃。いつもは明るい廊下も、何故か陰鬱な雰囲気を醸しだしていた。
 概要だけなら、他の所員からも聞いていた。だが、片桐から詳細を聞いて、七海は大きなため息と共に言った。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、アイツ、ホントに馬鹿だな」
 それを聞いて、片桐の形相が微かに変わる。そういう言い方はないんじゃないかしら?
「だって、そうだろ?確かに、依頼人だろうと容疑者だろうと、死者を出すべからず、というのはDDCでは暗黙の掟だ。けど、その代わりに本人が死んでいいなんて、一言も言っていない」
 死んでいないわよ、と言い返しそうになったが、これでは子供の喧嘩だ、と思いとどまる。
「じゃぁ――七海君は、自分が助かるためなら、他人を犠牲にしても構わないの?」
「そこまで言ってないけど。うん、でもそうだな。自分が死んだら、意味がないしな」
 落ち着いて。堪えるように、片桐は言葉を探す。
「でも、本郷さんは七海君じゃないもの。そんなこと、出来ないわよ」
 ひょい、と顔を近づけられる。疑わしそうな目つき。
「――紫乃ちゃんさぁ、何か本郷の肩持ってない?まさか、惚れてる、なんて言わないよね?」
 何かが破裂したのでは、と思われるぐらいの音。馬鹿、と言い捨てて、片桐は去っていった。
「…折れたかも」
 七海は頬を押さえ、それでも、にんまりと笑みを浮かべる。


「おやまぁ、これはまた。本郷君以上にインパクトのある顔になったねぇ」
「本当に。大事な商売道具に傷つけてくれちゃって、紫乃ちゃんも手加減ってのを知らないからなぁ」
 鏡よ鏡よ、鏡さん、この世で一番美しいのは、だあれ?
 ドクター・ドクロの自室で、どこから幾らで手に入れたのか疑わしい「ニュー・アンティーク様式」の鏡に向かって呟く七海に、部屋の主は、紅茶を淹れがてら、頬に残された赤い手形について言及する。
「何か、歯がぐらついている気がするんだよねぇ。これって、労災に入るかしら?」
「無理だね」
 ちょっと見せてみて。そう言われて、七海は口を開ける。
「んー、ちょっと欠けてるかな。木工用ボンドなら今あるよ」
「やめてくれ」
「あ、ハンダもあるけど?」
「もっとやめてくれ」
 冗談だよ、と笑って、カップを渡す。明日、依頼人に会うんだけどなぁ、と七海は机に顎を乗せる。
「でも、七海ちゃんって、天邪鬼だよねぇ」
「何が?」
 少しムッとして答えた七海に、ドクター・ドクロは、べーつーにー、とだけ言って、エリザベスの前にもカップを置いた。


 1時間ほど研究室で時間を潰し、自席に戻ると、机の上に箱が置かれていた。片桐の筆跡で、先ほどの詫びの言葉が書いてある。可愛いところあるじゃない、と開けてみると、一口サイズのショートケーキが2つ。給湯室から皿とフォークを持ってくるのも面倒だったので、七海は手づかみで口の中に放り込んだ。
「×●△★※▼■*!!!」
 声にならない悲鳴を上げて、隣の席に置いてあったコーヒーを奪い取って飲み干す。しょっぱいといえばいいのか、辛いといえばいいのか。熱いコーヒーも手伝って舌がヒリヒリする。
「…やられた」
 って、被害は俺ばかりじゃないか。床に手を着いて呟く七海に、コーヒーを盗られた同僚は、呆れたように言った。
「前から思っていたけど、お前、ホントに馬鹿だな」




05/05/01
7.「馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、お前、ホントに馬鹿だろう」
天邪鬼七海さんは、素直に人を励ましたりしないかも、という話(笑)。で、紫乃ちゃんもそれが分かったので、お返し。子供より、すこーしだけ大人な2人の喧嘩。



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