TOPcreation七海ちゃんの台詞で七つのお題 > The Seventh Day



The Seventh Day


 ノックをしてから入室する、というのは当然のことだが、相手によっては意外なことにもなる。その日、『当然』の入室方法をとった七海を見て、本郷は微かに驚いたようだった。
「――何だよ、その顔」
「お前でも、まともに部屋に入ってくることがあるんだな」
 事も無げに返した本郷に、七海は怒りもせず、何かを企むような笑みを浮かべる
「いやぁ、看護婦さん口説いている最中だったら、悪いかなーと思ってな」
 睨み付けるついで、とでも言うように、視線だけで、何の用だ、と聞いてくる。
「お前、もーちょっと『弾む会話』を心がけようとか、思わないの?――まぁ、いいや。ほれよ、一昨日の。カオル君に話、聞いてきたぜ」
 書類をポン、と投げる。聞けば聞くほど、やっかいな事件だった。それを要領良く説明した彼は、さすが名高い大学の主席入学者、とでもいうべきか。少々――いや、かなり変わった人物だったが。
「で、そのカオル君から伝言。『こっちに来た時は、案内するので、是非連絡くださいねー』だと」
 語尾にハートマークを付ける勢いで、ハスキーな声を披露した七海に、本郷は分かった、とだけ答えた。その反応に、一瞬鼻白む。
「…お前って、そーゆー相手に対しては、普通だよな」
「特別に接する必要はない」
「それじゃオレが困るんだよ」
「面白くないから――か」
「よく分かったな」
本郷は、誰のせいだ、と心の中で返す。そもそも『そーゆー相手』の最たる者は、目の前の人物なのだ。しかもこちらは、単なる嫌がらせ。長い間、七海を相手にしていれば、他の者が可愛く見えてくるから不思議だ。
「お前、そっちの方のシュミもあるとか言わないよな?――はっ。看護婦さんを口説く気配を見せない、ということは、まさか――」
 七海ちゃん貞操のピンチ〜、とベッドから離れる七海に、軽くため息をついて、ドアを指差す。
「部屋を出て、左に曲がり、階段を下りて、3階で、隣の建物に渡る廊下がある。その建物の1階が、診療室だ。一回、診てもらって来い」
「…何があるんだよ?」
「精神科」
「おい!」
 再びずかずか近づいてきて、それこそ胸倉を掴むのでは、といったその時。ドアが乱暴に開けられた。
「まぁ、また、あなた!病院内ではお静かに、と言ったでしょう?!」
 その声は聞き覚えがあった。3日前だ。振り向くと、予想通りの人物。
「なぁ、あれ、誰?お前の担当?」
「…外科の婦長だ」
 心なしか、本郷の声もうんざりしている。お大事に〜。手を振って出て行く七海を睨みつけるように、婦長も続く。パタパタと足音が近寄ってくる。白衣の天使、という言葉がぴったりの女性。
「泉さん。今度から、面会者の言動には、ある程度、気を配って頂戴」
「は、はい」
「…そんな風に言われるほど、何かやった記憶もねぇけどな」
 ぼそりと呟いた七海に、泉と呼ばれた看護師は伺うような視線を向け、一礼してから部屋に入っていった。おいおい、こんな可愛い子が担当なのかよ。思わず口笛を吹きそうになり、婦長の視線に気がつく。
「そんじゃぁ、オレは――」
 部屋の中から、けたたましい金属音が鳴り響く。そして、ごめんなさいっ、と続く女性の声。婦長は、ため息をついた。
「できる子なのにねぇ。どうもネジが1本、抜けているというか…」
「はは…」
 乾いた笑が出る。外見が外見だから、それだけでいい、という男は多いかもしれないが、生憎本郷は、その辺に関しては全く通じない。そのうち、精神科にまで出張しなければいいが。
「まぁ、あんなヤツでも、いないと一応困るんで。できるだけ早く出してやって欲しいかな、と」
「わかっています」
 あれ、オレ、嫌われた?婦長の鋭い視線に、ひらひらと手を振って、よろしくお願いします、と立ち去る。


 3階で隣の建物に移り、階段を下りる。明るい、開放的な待合室に出た。
「忠告はありがてぇけどな、まだ、オレには必要ねぇよ」
 誰に言うでもなく、大きく伸びをして、七海は踵を返す。




05/05/07
6.「それじゃオレが困るんだよ」
「探偵用語の基礎知識」より。本郷先生には「癒し系」は必要ないと思う。むしろストレス溜まるんじゃないかな〜。ついでに言うと、本郷先生も七海さんも、そっち系の人に好かれそうな(以下略)



TOPcreation七海ちゃんの台詞で七つのお題 > The Seventh Day