The Sixth Day
その日、七海は珍しく大きな足音を立ててやってきた。あまり機嫌が宜しくないな、と思いながらも、自分には関係ないだろうし、とドクター・ドクロは、いつも通り出迎えた。
確かに機嫌は悪そうだったが、単純に腹をたてているようでもなかった。
「ホント、最近の子ってわかんねぇ」
もはや指定席と化した椅子に座るやいなや、七海は、そう切り出した。
「何飲む?」
「七海スペシャル、ひとつ」
「青汁とゴーヤのミックスジュース?」
「…俺が悪かった。アールグレイ、お願いします」
そのやりとりで、幾分落ち着きを取り戻した七海は、火にかけられたビーカーを眺めながら呟いた。
「なぁ、何で本郷の周りって、変なヤツが多いのかな?」
「うん、そうだねぇ。七海ちゃんとか」
飄々と答えるドクター・ドクロに、七海は、ちーがーうーっ!と叫ぶ。
「ドクロちゃんとか、の間違いだろ?第一、俺には、すっぴんでオトコにキスする趣味もねえし!」
しばしの沈黙。
「…つまり、そーゆーこと?」
「…そーゆーこと」
憮然とした答えに、ドクター・ドクロは、何を今更、と笑う。つられて、そうだよな、と七海も笑った。
「まぁ、そう。別に、男にキスされたからって、今更どーのこーの言うほどウブじゃありませんよ、俺だって。でもねぇ、外見がねぇ」
「柔道の選手みたいなの?」
「逆。全然、逆。すごく美人。顔立ちも結構女っぽいの。声もハスキーでさ、名前も男女共有モノだし。ぱっと見、男って分かるヤツはいないんじゃないかなぁ。服装も女性モノで、華奢な身体にロングスカートが良く似合う!」
ダン、と机を叩いて力説する。
「…そっち系の人?」
「性格は結構、男らしいよ。どっちかというと、服装倒錯者、プラスアルファ、って感じ。で、海外暮らしが長いから、別にキスだって、自然だし」
「じゃぁ、何が気に入らないの」
「……負けた」
「は?」
「DDCの中でもNo.1の、変装の名人のこの俺が!あんな子供に!女装で負けるなんて!」
机にガバッと伏して、俺の時代は終わった、と泣く「変装の名人」を見て、ドクター・ドクロは、何か違う気がするけど、と茶葉を入れる。
「でもねぇ、もともとの作りが違うんだったら、勝負も何もないでしょ?彼――は、女装しているわけでもないんだし。というか、そんな人が本郷君の周りにいるの?」
え、と小さな声を上げて、七海は顔を上げる。
「俺、そんなこと、言った?」
「言った」
目をくるりと回転させて、聞かなかった事にして、と頭を下げる。その挙動自体が、秘匿事項――例えば、事件の関係者――に関連するもの、と自白している。はいはい、と答えて、お湯を注ぐ。
「明日、本郷のところへ行ったら文句言ってやる」
まだブツブツ言う来客に、本郷君も災難だね、と少しだけ同情する。
「じゃぁ、違う質問するけど――」
「ん?」
何かを期待するように、ドクター・ドクロは、ずいっと顔を近づける。
「さっき、七海ちゃん、『すっぴんで男にキスをする趣味はない』って言ったよね?ということは、すっぴんじゃなきゃ、男にキスする趣味あるの?」
05/05/07
4.「すっぴんでオトコにキスする趣味もねえし」
最初、このお題を見て思ったことは、最後のドクロちゃんのセリフです(笑)。七海ちゃんって、傍から見ればどうでもいいようなところに変なプライド持っていそうな気がするんですが。さすがに彼は特殊メイク無しで女装は出来ないかなぁ、とか。