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22.意外な伏兵


 昼休み。弁当を広げたところへ、重なる影。食が最優先事項ではない本郷と広瀬は同時に手を止め、小柄な割りに食欲旺盛な羽山は、一口、ご飯を放り込んだ。
「ねぇ、本郷君」
 思いつめたような顔をした新岡が立っていた。どうした、と訊く前に彼女は言葉を続ける。
「昨日、一緒にいた女の子、誰?」
「…………は?」
 広瀬と羽山の視線が移る。
「私、見たんだもん!H高の制服着た子と、仲良く話しながら歩いていたじゃない!」
 ――H高。該当者は1人しかいない。危うく名前が出そうになったが何とか留まった。
「え?!H高!あの、入学審査項目に『美人』があるとかないとかいう、噂の女子高?!」
 羽山の素っ頓狂な声に、数人の同級生が振り返る。そんな差別的な入学試験があるなんて話を彼女が聞いたら、それこそ当時の試験の内容を1から10まで語りそうだ。いや、そんなことは今は問題ではない。つまり、新岡が見たと言うのは、昨日DDSから帰る途中の、本郷と紫乃だろう。
「あの子、何なの?言っとくけど、見間違いだろうって言い訳はなしよ!?昨日の午後9時10分、T駅で見たんだから!」
 事件が起こった際のアリバイとしては十分だが、それはつまり、犯人に対する証言としても有効ということ。一旦道を誤った、彼女のこの手の意見を修正するのは難しい。DDSに通っている、という話をしていたならまだしも、あまり大勢の人間に触れ回るなと言われている以上、口の堅い数名の教師と広瀬にしか知らせていないのだ。その、事情を知っている一人は。
「あー。男と女の修羅場って、こういうものなんだ。俺も気をつけよ」
 我関せず。芝居は上手いが、助けになっていない。方や、事情を知らない一人は。
「本郷って、なんでかもてるよな。コツでもあんの?」
 色恋沙汰より目の前の弁当が大事。箸を口へ運びながら、これまた無責任な発言をする。
「何で、あんな子なの?!妖艶なお金持ちの人妻とだったら、まだ分かるのに!」
 分かるのか。本郷と広瀬は同時に小さく呟く。咽ながらも笑い続ける羽山に賞賛の拍手でも送りたい気分だった。
 「え、お前不倫してるの?」「ありえねぇだろ、テレビじゃあるまいし」「や、でも絵にはなるよな」「馬鹿いわないでよ」「何で男ってそういう話が好きなの?」
 級友の注目も相俟って、何とか誤解を解かなければという気持ちだけが先走る。だが、その前に新岡の感情が爆発した。
 ぽろぽろと流れ落ちる涙。
「に、新岡?」
「馬鹿!バカバカ!本郷君なんて、その人妻と心中しちゃえばいいのよ!」
 何故、紫乃と人妻が入れ替わる。しかし、状況が好転していないのは明らかだ。気の利いた嘘でもつければいいのだが。いや、彼女とは別になんでもないのだから、嘘などつく必要はない。俺は何を焦っているんだ。
「俺、ずっとクラス一緒だけどさ、うろたえるお前って初めて見た」
 広瀬が何とはなしに口にした言葉で、さらにざわめく教室。


「そりゃぁなぁ、ウチは恋愛に関しては何ら規制を設けてないし、昼休みだから何の話をしようと構わんが、もうちょっと周りを考えてだな」
「はぁ…」
 通りかかった教師に、名ばかりの生徒指導室へ連行され、気が進まないながらも、ひとまず事情を話す。新岡はまだ隣でしゃくっている。
「まぁ、お前らが何かやらかすとは思ってはいないが、ほどほどにな」
 何かとは何なのだ。八つ当たり気味に尋ねてみたかったが、彼にしたって、勘違いが生んだ痴話喧嘩――痴話という言葉がつくかはともかく――としか思えないのだから、ここに呼び出すほどのものでもないことは承知しているだろう。彼なりの事態の収拾を試みた結果だ。
 昼休み終了5分前のチャイムが鳴る。
「じゃ、教室へ戻れ。あぁ、そうだ。本郷――」
 腕をつかまれ、耳元でささやかれる。
「その人妻って、そんなにいい女なのか?」
 何を聞いていたんですか。そう答えた口調は、我ながら冷淡だった。


 廊下の角を曲がったところで、広瀬と羽山が待っていた。広瀬の手には、本郷の鞄。
「出所、おめでとう。どうせ今日は『塾』だろうし、今、教室に戻らない方がいいと思って」
 広瀬の言葉に、新岡が、え、と顔を上げる。そうか、単に塾と言えば良かったのか――。いや、しかし、クラスの半数以上が塾や予備校通いだ。迂闊に名前は挙げられない。
「塾なの?あの子、塾の子?」
「本郷のことだから、夜遅いから駅まで送っていったんだろうよ。そのくらい、想像つくだろ?」
 実際、そうなのだ。たまたま掃除当番の七海がいなかっただけに過ぎない。出来ることなら、もっと早くそう助言して欲しかった。それでも、新岡は小さく、ゴメンと謝った。
「で。本郷はしばしの辛抱だ」
「辛抱?…というか、何故お前が俺の鞄を持っている」
「ほとぼりが冷める気配がないから」
 訝しげな表情をする本郷の肩を、ポンポンと叩き、心の底から同情した声を広瀬は出した。
「お前、今、教室で『人妻キラー』とか呼ばれてる」
「…………は?」
「ま、あいつらの事だから、1週間もすりゃ落ち着くって。じゃ、これ、鞄」
 広瀬の差し出した鞄を、反射的に受け取る。羽山が笑顔で続けた。
「ちなみに、弁当はオレが食っといてやったから」




05/11/25
当時の本郷君は女の子に泣かれるのは弱いはず(笑/何の根拠が)。
1期生時代は、今と違って名は通っていなかっただろうから、学校を早退してまでやってはいないんじゃないかなとか思うのです。試験的なところも多いから、あまり口外もしていないんじゃないかなぁ…と思ったら「とんだ誤解」話が出来てしまいました。オリキャラは「SEE YOU AGAIN」「THE WAY」から流用





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