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2.初めての授業


 学校といっても、まだ教科書はない。教壇に立った団が最初に口にしたのはそれだった。DDSが今後どのようになるかは、君たち次第だ。その言葉に、一層緊張が高まる。
「――さて。さっそく授業を始める、といいたいが、入学式を終えたばかりだから、今日は軽めにしようと思う」
 あ、授業はやるんだ。七海の心の声が聞こえたのか、団はまず彼の方へ顔を向ける。
「ある事件が起こった。例えば殺人。犯人は自分だ。凶器に使われたものは、見つかれば自分が疑われることは間違いないようなもの。さて、この凶器をどうする?」
「…捨てます。海とかに」
 軽く頷き、片桐へ視線を合わせる。
「では、外へ出られない状況だとしたら?」
「――凶器にもよりますが…ひとまず、隠します」
「隠す、といえばよく知られた言葉があるが、知っているか?」
「――枝を隠すなら森、でしょうか」
 少し考えて、本郷はそう答える。
「そう。そこで――いま、この建物の中に、あるものを隠してある。それを3人で探してきたまえ」


 そう大きくはない建物。全てを見るのにさほど時間はかからなかった。使用目的のない部屋には埃が溜まっている。
「アヤシイもの、発見」
 七海が指差した先。2階の日当たりの良い部屋。遮るものがない窓際。日焼けした床。一角を除いては。
「ずっと何か置いてあったみたいね」
「正方形に近いが…どちらかというと、1つのものではなくいくつかのものがまとめて置いてあったようだな。境にずれがある」
「でも、角は直角だから、四角いものなんだろうな。ということは」
 顔を見合わせる。机、ダンボール、本。移動が可能なものはそのくらいだ。
「あるよな。1階にさ」


 さっきは一瞥しただけの部屋。明かりをつける。一際埃っぽく、窓のない室内は、本で埋め尽くされていた。
「資料室、と考えればいいのかしら…」
「でもさぁ、こんな山積みじゃ、見るものも見らんないな」
「むしろ書庫じゃないのか」
 何冊か毎にまとめられた本を注視する。本にも埃が溜まっているが、日焼けにより色あせているものもあった。あの部屋から持ってきたものと断言して良さそうだ。縛るのに用いられたビニールの紐も新しいものが混ざっている。背表紙を見ると、法律や科学の専門書のようだ。団や連城が使用したものだろうか。
「あら?」
 気がついたのは片桐。ドアの横にあった本の山。下から4冊目にあたる部分が、ぽっかりと抜けている。もちろん、何もないわけはないのだから、小さな本がはさまっていると考えるのが自然だ。
「ねぇ、これ…」
 しゃがんで覗き込む。他の2人も、それに倣う。
「手帳じゃないかしら。3冊あるわ」
「先生が言っていたのって、これかな?」
 ビニール紐を解いて、手に取る。右下に小さく「DDS」とエンボス加工された、普遍的な革の手帳。ペンホルダーには、カートリッジタイプの万年筆が収められていた。かっこいい、と七海が呟く。  開くと、既に何か書き込まれている。
「探偵の心得…」
「これ、全部先生たちが書いたのかしら」
「学校の生徒手帳より、はるかにいいよな」
 よく見れば、他の山にも新しい本が3冊ずつ挟まれている。探偵にはこういう遊び心も必要だと、訴えているようだった。


「戻ってきませんねぇ」
「資料室に入ったのは見届けた。目的のものは見つけたんだろうな」
「それにしても、今頃筋肉痛が来るとは、僕も年を取ったんでしょうか」
「ん?そんな重労働をやったかね?」
 腕を摩りながら呟いた連城に、団は心底不思議そうに尋ねた。
「先生はひたすら手帳に探偵心得を書き込んでいただけですからね。僕は2階の本を全部あそこへ運んだんですよ」
「まるで私が楽をしていたような言い方だな。あれを3冊分書くのだって、結構労力は使うんだぞ」
「じゃぁ、この次は交換しますか?」
「今後はあの3人にやらせればいいだろう。さ、我々も一息入れるか」
 相変わらず人使いが荒い。心の中で毒づいて、連城はお茶を淹れてきます、と席を立った。




05/10/14
DDS手帳が今のように発展したのは、ドクター・ドクロの影響が大きいと思うのです。彼がいつからいたかは知りませんが、このころはまだ普通の手帳であったと仮定。





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