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19.ねぇ、教えて?


「紫乃、ちょっと待って!」
 今日はDDS。学校を早退しなくてもよい時間帯に設定されてはいるものの、友人たちと喋りながらだと予習する余裕がなくなる。帰りのホームルームが終わるやいなや、教室を出ようとした紫乃の腕をクラスメイトが掴んだ。
「何?今日は――」
 忙しい、という言葉は、ずいっと近づけられた顔によって続かなかった。
「ねぇ、昨日、一緒にいた男の子、誰?」
「昨日?」
 日曜日。最近はDDSでクラスメイトと遊ぶ時間も減ってきている。ましてや女子高、男子と遊ぶなど――。
「デートだったの?」
「違うわよ!尾――」
 いいかけて紫乃はまたも言葉を飲み込んだ。妙な沈黙が降りる。いくらなんでも、尾行練習なんて言えるはずが無い。
 昨日は珍しく実習で、くじ引きの結果、本郷が連城を、紫乃と七海が団を尾行することになった。つまり、『一緒にいた男の子』は七海である。当然、デートなどではない――日曜日に私服で街中にいる一組の男女を自動的にそう呼ぶのであるなら別だが――。
「び?何それ?」
「えーと、美術館に…」
「やっぱりデートじゃない!」
 その声に、他の友人もわらわらと集まってくる。
「嘘、紫乃って彼氏いたの?」
「まぁ、私の誘いを断るぐらいだから、それもありか」
「興味ないとか言ってたのに」
「いいなぁ、紹介してよ」
 苦笑いをしながら、何とか教室から出ようとした紫乃の足を止めたのは、別のクラスメイトの一言だった。
「彼氏って、S高の?体育会系っぽい。私、金曜の夜、見たよ」
 昨日の目撃者は首を振る。
「うぅん。癖っ毛で、間違っても体育会系じゃぁないわね……ということは」
 肩をがしっと掴まれる。
「あんた、二股かけてるの?」
「どうしてそうなるのよ!」
 金曜の夜といえば。そう、確かに本郷と帰ってはいた。七海が掃除当番だったから。
「だって、仲良さそうだったよ?公園のベンチに座ってさ、真剣に話、してたじゃない」
「あれは、ちょっと勉強を教えてもらってただけで――」
「何でS高の人に?そこからして怪しいじゃない」
 確かにS高は地理的にも離れている。彼女の意見はあながち的外れとは言えないかもしれない。S高じゃなくてDDS、と言いたいのは山々だったが、そうすると、根掘り葉掘り聞かれるのは間違いないだろう。
「公園、てのも怪しいわよね。ファミレスとか喫茶店とかなら分かるけど」
「人に聞かれたくない話だったのよ」
 きっと彼女の意図するものとは違うが、それは正解だった。店内で死体の腐乱速度と検死の仕方なんて話が出来るはずが無い。
「でも、いいわねぇ。夜の公園で2人きり。将来の夢とか話し合ったりして」
 うっとりと何を夢見てるのか、友人は頬を染めて呟く。
「ね、じゃ、昨日の子はただの友達?だったら紹介してよ!」
 あの2人に彼女がいるかどうかは知らないが、よしんば七海はOKしたとしても、本郷は顔すら出すまい。第一、あの2人をどう紹介しろと――。
「無理よ」
 うっかりと声に出した途端、友人たちはぐるりと紫乃を取り囲んだ。
「それって、どーゆー意味?」
「やっぱり、2人とも紫乃の彼氏なの?」
「でも、S高に彼氏がいるなら、彼氏の友達だって知っているでしょう?」
 駅から一本道、5分でたどり着ける女子高には出会いの場は少ない。必死になる気持ちは分からないでもないが――いや、やはり分からない。
 そんなことよりも、DDSに遅刻する。それが何よりの問題だ。


「うぃーす。って、本郷。早いな、お前」
 いつも一番乗りで着ている七海がドアを開けると、本郷は既に席についていた。
「あぁ」
「…どしたの。何か、疲れてるけど。彼女に振られた?」
「そっちの方が楽だったな」
「…本気でどしたの、お前」
「別に」
 本郷がこの時間に来る、というのは早退か、授業がなくなったか。前者であれば、よほどのことがあったのか。何せ、真面目を絵に描いたようなやつだ。もっとも、学校での立ち振る舞いは知らないのだから、実は珍しくもないのかもしれない。
「おはよう」
 ガラッとドアが開く。息を切らせた紫乃が入ってきた。まだ授業開始には時間がある。何をそんなに急いできたのだろう。
 本郷と七海が返す前に、紫乃はツカツカと寄って来て、2人を交互に見た後、おもむろに問いかけた。
「ねぇ、普通の高校生の男女って、どんな話をするのかしら?」
『…は?』
 答えを待たずに自席へ向かう彼女を一瞥、本郷と七海は、『何をした』と、胡乱気な視線を互いに向けた。




06/02/09
最近は女の子同士でも「デート」という言葉を使いますが、果たしてこのころの「デート」の意義はどうだったのでしょうか





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