14.お前は男だろう!
「本郷、ラブホ行かねぇ?」
いつになく真面目な表情で放った七海の言葉に、いや、いつになく真面目だったからこそ、本郷はしばし、思考も動きも止まった。
「引くなってば!そういう意味じゃねーよ!」
どういう意味があるというのだ。まだ硬直したまま、言葉には出してはいないが、どうやら伝わってはいるらしい。
「コレ」
そういって取り出したのは、皺になった昨日の新聞の切り抜き。ようやく、本郷の脳は活動を再開した。数日前に1人の女子高校生が行方不明になったというものだった。公開捜査に踏み切ったものの、進展はしていない。
「――それがどうかしたのか」
「オレさ、彼女、知ってんだよね」
「知り合いか」
それならば気にかけることもおかしくはないが、最初の台詞とは結びつかない。
「知り合いってほどじゃないけど、オレ、彼女が行方不明になった前日に、街中で声かけられたんだ」
本郷の表情がやや訝しげになる。
「焦って一方的に言って、走って行っちゃったんだけど」
「何を言ってきたんだ」
「もし私が事件に巻き込まれたようなことがあったら、Eホテルの402号室を調べて鍵を見つけてくれって」
本郷の顔つきが完全に変わった。
「警察には」
「言ってない――怒るなよ、違うんだって。彼女は、絶対に見つけてから警察に持っていってくれって、そう言ったんだもん」
事故か事件か不明ではあったが、警察は公開捜査を開始した。つまり、情報提供者を待っているということだ。結果的に警察に話せということならば、最初から伝えた方がいい。
「いや、だからさ――彼女は、多分、その隠したものが『偶然』見つかって欲しいんじゃないかと思うんだよ。でも、いつかは確実に見つかって欲しい。だから、オレにそんな伝言を頼んだんじゃないかなぁって」
「何故だ?」
「えぇと――例えば、オレを巻き込まないようにしたとか」
「十分、巻き込んでいるだろう」
「でも、偶然見つけたというのと、彼女に頼まれたというのじゃ、全然違うじゃん」
しかし事の重大さを――。そう言いかけて、本郷は口を閉じた。それを警察が見つけることで、彼女か他の誰かに被害が及ぶ場合もある。間接的に扱われた方がいいと考えるのは、七海に迷惑をかけたくない、というよりは現実的ではないか。
「それ以前に、お前が彼女に会ったことはないのか」
会話の流れをぶっつり切るような本郷の問いに、七海は軽く首を傾げて答えた。
「いや。でも、学校は近いよ。だから、学校終わって遊ぶところも同じだから、見かけてはいるかもしれないけど」
「ならば、お前が探偵学園に通っていると、彼女が知っていたとしても、不思議はないな」
あちらこちらに首を突っ込んで、そのうち何割かで騒ぎを大きくする七海が、探偵学園に通っている、というのは、本郷や片桐がそうだというよりも知れ渡っている。七海は、バツが悪そうに頷いた。しかし、直ぐに、ハッと身体を乗り出す。
「てことは、やっぱりオレ、やんなきゃ。だって、そうだとしたら、彼女は一か八かじゃなくて、オレに頼んだって事かもしれないんだし」
話が最初に戻る気配がした。偶然が必要ならば、ラブホテルに男1人で行くというわけにはいかない。言いたい事も、必要性も重々承知ではあるが。
「オレ、女装するよ。なら、いいだろ?」
確かに七海の女装には驚かされたが、後のフォローはどうするのだ。その意を取ったか、七海も反論する。
「だって、紫乃ちゃんにラブホ行こうって、言えねーだろ!お前、言えるのか?」
「…いや」
「Eホテルだったら、相当離れてるから知り合いに会う可能性、ほぼ0だし、大体、男なんだから、そのくらいフツーじゃん。それに、万一オレが男ってばれても、お前の趣味を疑われるとか彼女に振られるとか、そんなぐらいで済むだろ」
正義のための一種の吹っ切れが探偵に必要だとしたら、七海と共にいるというのは、最適の訓練方法かもしれない。それでも本郷は、頭を抱えざるを得なかった。
07/11/08
今では七海さんの変装やそれに伴うとばっちり(?)も何事もないように対応するであろう本郷先生ですが、やっぱり最初のころは抵抗感は強かっただろうと。七海君は頓着しなさそうですけど(だから悪ノリするのかしら)、その前にこの頃の七海君が素直に本郷君に捜査協力依頼するのか疑問